インフレで欧州の気候問題巡るコンセンサス揺らぐ-消費者に余裕なく

本稿はEllen Milligan、Olivia Rudgard、Petra Sorgeが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。(2023年9月19日)

2019年、欧州連合(EU)離脱の条件について議会で険悪ムードの議論が行われているさなか、英国は50年までのネットゼロを法制化した最初の国となった。この法律は1票の反対票もなく可決された。

結束は、続かなかった。目標は変わらないものの、スナク首相は世論調査で敗北が見込まれている選挙を前に、気候問題が利をもたらす政争の分野だと考えている。スナク政権は労働党優勢のロンドンでの低排出ゾーン拡大に反対している。また新たに100の石油・ガス開発にライセンスを付与した。これは労働党のスターマー党首が停止を約束していたものだ。

右派系の新聞に後押しされ、保守党議員の一部はさらに踏み込んだ政策を求めている。例えば内燃機関車の新車を30年までに禁止する計画を撤回することだ。

「われわれは合意により統治されており、ネットゼロのコストは、その合意を危険にさらしている」と、保守党議員で党内右派の中心的な存在であるリースモグ元エネルギー相はコメント。「経済がうまくいっているときには合意があった。インフレで経済が痛んでいるときには、合意はずっと形成されにくい」と述べた。

10日にニューデリーで開催された20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、スナク首相は排出量削減の推進で消費者を苦しめるべきではないと指摘。ガーディアン紙によれば「私にとってネットゼロは、全てを諦め、料金が上がるといった苦しい話であってはならない」と同首相は述べた。

英国に限らず

気候問題を巡りコンセンサスが揺らいでいるのは、英国に限らない。6月には南ドイツの町に1万3000人が集まり、ガスボイラーを禁止する法律に抗議した。この問題は、緑の党がパートナーのショルツ連立政権を揺さぶった。

EUのいわゆるグリーンディール政策の一部に対しては、加盟国からの反対がある。フランスは排ガス規則強化に反対しており、ドイツは内燃機関の禁止をほぼ阻止した。

ベルギーのデクロー首相など他国のリーダーも、炭素排出量削減に向けた政策が速いペースで進むことによる産業界への影響について、注意を促している。オランダの政治は、農場からの排出を抑制する計画への反対で揺れている。

熱波や山火事、洪水で排出ガスの影響がこれまで以上に明白になる中、欧州の有権者の多くが気候変動への対策を求めていることを世論調査は示している。だが有権者は汚染を低減する技術に移行するコストは負担したがらない。

政府には、長期のグリーン目標達成に取り組む一方、インフレが引き続き人々の財布を直撃する中で企業や個人に先行投資の費用を負担させ過ぎないことが求められる。

原題:The Inflation Crisis Is Fraying Europe’s Climate Consensus(抜粋)

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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