Read the English version published on April 20, 2023.
金融取引プラットフォームの急速な技術的進歩、規制要件、金融資産ニーズの世界的な高まりといった要因を背景に、セルサイドの企業もデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた投資を迫られています。
バイサイド企業の意思決定がより迅速かつ洗練されたものになる中、セルサイド企業はデータを活用した技術で取引のワークフローを改善することで後れを取らないようにしています。銀行やその他金融機関は、技術がもたらす機会を無視すれば競争上不利になることを理解し、トレーディング、リサーチ、オペレーションのチームを刷新しています。
デジタル化の対象となる部門は小さいながらも拡大しているため、データ主導の変革から得るところが最も大きいのは世界の金融インフラです。
誰もが勝者
トレーディングデスクが生成するデータの価値を生かすことで得られるメリットは数多くあります。主なものに、効率性の向上、リソースの有効活用、オペレーショナルリスクの低減が挙げられます。これらはいずれも、営業コストの削減につながります。しかし、人工知能(AI)ベースのツールでデータを分析すれば、価格発見などの重要な機能を向上させる高度なモデルやアルゴリズムの作成を通じて、より大きな価値やトレーディング収入を生み出すこともできます。
最も基本的なところでは、デジタル化を進めれば、ワークフローの自動化を通じて時間短縮とコスト削減ができます。フロントオフィスやバックオフィスでは、定例作業が日常業務の大部分を占めています。これは不可欠ですが、手間のかかる仕事です。ワークフローを自動化すれば、熟練したスタッフの手を煩わさずにそうした作業を行えるようになり、手が空いたスタッフはクリティカルシンキングを要する業務に自分の時間をより効果的に使うことができます。
自動化された作業は、より迅速に行うことができ、手作業によるデータ入力のミスや対応の遅れといったオペレーション上の摩擦がもたらすリスクを軽減できます。
また、データを分析してパターンやトレンドを見いだし、将来の意思決定に役立つ知見を得ることも可能です。一部の判断は従来、管理職が経験則に基づいて下していましたが、今では自動化システムが、どんなに優秀な人でも処理できないような豊富なヒストリカルデータなどに基づいて、同じことができるようになっています。
成功の定義
債券取引を行うセルサイドのオフィスにおける実際のデジタル化とは、どのようなものなのでしょうか。
デジタル化した世界ではデータは金塊であり、セルサイドのチームは、業務の大幅な改善に向けて収集、分析、活用できる情報という宝の山の上にいるようなものです。
最も明らかなのは、日常業務でバイサイドの顧客にサービスを提供する際に、取引、価格、カウンターパーティーの需要に関する膨大な情報が入ってくることです。こうした情報は構造化されたデータを構成するため、テクノロジーを利用することで、より深く理解し、より有効に活用することができます。しかし、それに比べて不明瞭で把握しにくいのが、カウンターパーティーとの音声でのコミュニケーションに含まれる貴重なデータです。最も強い期待を抱かせるイノベーションが起こっているのが、この分野なのです。
自然言語処理(NLP)とは、チャットやメッセージを読み、録音データを聞き、リポートやソーシャルメディアの投稿を調べて、情報の宝庫を探り当てることができるAIの機能です。これらの情報から、顧客のRFQ(気配提示依頼)や将来の取引の意向、さらには特定の株式やその他の資産に関する世論など、あらゆることに関するデータを収集できます。
機械学習(ML)のプロセスを通じてさらに分析を進めれば、膨大な量のデータからパターンを特定し、ひいては将来のトレンドを予測することができます。この分析結果は、意思決定者が新規事業戦略を策定するため、またはトレーダーが次の取引のヒントを得るために利用できます。
このような情報や知見を得て、さらに他の社内データや参照データと組み合わせれば、セルサイドの企業は自社の事業を全方位から見て、業務や戦略に真の変化を生み出すことができます。
例えば、自社に寄せられた大量のRFQを分析するシステムによって、取引の準備を自動的に整え、執行に備えることができます。手作業で注文を出し、価格が戻ってくるのを待つのではなく、自動化システムにそれを行わせれば、トレーダーは時間のかかる取引前の準備を行う必要がなくなり、より大きな案件や付加価値を生む他の業務に注力でき、ワークフローの効率が向上します。
さらに、AIによる分析結果からプライシングモデルを構築できます。この分析結果により、セルサイドの企業は膨大な資産価格情報を検索し、より多くの取引を顧客に提示することができます。また、金額の大きい取引ではボイス取引が継続されるのが確実ですが、デジタル化によって、トレーダーが幅広い資産について信頼できる価格情報を簡単に入手できるようになるため、取引の効率化が促進されます。
顧客サービスの向上
データフォワード技術は、企業の業務の大部分を自動化できます。この技術は経済のあらゆる部分に利用されつつありますが、急速に進化する現代の金融サービス業界では特に積極的に採用されています。これを最も効果的に活用できているのは、あらゆる変革の最終的な目標は顧客の経験と結果を向上させることだと理解して利用している企業です。
セルサイドの金融機関は、そうした対応ができています。バイサイドの顧客のデジタル化と歩調を合わせ、これらの顧客にサービスを提供するためにシステムやオペレーションを整えているのです。その過程でセルサイドの企業は、オペレーショナルリスクを低減し、合理化を進め、ワークフローの効率と費用対効果を高め、収益の流れを拡大しています。
ブルームバーグは、セルサイドのお客さまがワークフローの効率化に利用できるツールをフルパッケージで提供しています。ブルームバーグの強力なプライシングモデルは、何十億もの市場データを検証した上でリアルタイムの価格を世界中のトレーダーに伝えています。ブルームバーグのリアルタイム・プライシング・プロダクトは、市場データフィード(https://www.bloomberg.com/professional/product/market-data/)を通じて提供しています。これらのデータは、APIを通じてさまざまな注文・取引管理プラットフォームに高速で供給できるほか、ブルームバーグの最新のトレード・オーダー・マネジメント・システム(TOMS)や電子トレード・オーダー・マネジメント・システム(ETOMS)と組み合わせて利用できます。
TOMSはブルームバーグ ターミナルに搭載されており、お客さまは取引に向けてより多くの情報を得るために、ブルームバーグのデータ分析やニュースフィードと併せてこれを利用できます。またこれによりフロント、ミドル、バックオフィスの業務を連動させることもできます。ETOMSは世界の40以上の取引所に組み込まれており、債券のマーケットメーカーやプライベートウェルスマネジメントの執行デスクに対し、ブルームバーグの分析やAI製品を通じて高度な電子取引機能を提供しています。
従って、トレーダーは、ルールビルダー(RBLD)機能に注文を送ってブルームバーグの債券取引(FIT)機能を通じて取引を執行したり、他の取引所に注文を送ったりできます。
そのため、お客さまは特定のニーズに合わせて、より多くの機能を組み込むことができます。
本稿は、ブルームバーグのリアルタイムプライシング部門ヘッドのRobert Simekと、ETOMSプロダクト部門ヘッドのDan Tsouが執筆しました。また本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。