高い炭素目標でESGファンドによる組み入れ増加も、リスクあり

Read the English version published on November 04, 2022.

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンスのESGアナリストShaheen Contractorが執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)が算出するBIカーボンスコアの上位4分の1に入る企業は、ESG(環境・社会・企業統治)投資家からの資金を集めやすく、ESGファンドの成長に伴いさらなる投資の恩恵を受ける可能性があります。スコア上位の小型企業のうち、スウェーデンの鉱山会社ボリデンなどでは、ESGファンドが時価の少なくとも14%を占めています。これは、より多くのESGファンド資金が集まる可能性だけでなく、ESG目標の未達やESGファンドの資金減少によるリスクも示唆しています。米電気自動車(EV)大手テスラのような大型株では、ESGファンドが時価に占める割合はわずか1%にすぎず、ESG投資の流れによる影響はほとんどないとみられます。

BIカーボンスコアが高いとESGファンド組み入れ率も高い

カーボンスコア最上位銘柄から成るBIカーボン・リーダーズ・ポートフォリオを見ると、各銘柄を保有する全ファンドのうちESGファンドが占める割合を示す組み入れ率は中央値で24%と、最も高い数値となっていることが分かります。つまり、その銘柄を保有するファンドのほぼ4分の1はESGファンドであることが示されているわけです。これは、気候変動対策への意欲的な取り組みが銘柄選定の際に意識されていて、ESG投資が加速する中で、投資家の関心をより集める可能性があることを示しています。一方、気候変動への取り組みが不⼗分な企業の銘柄から成るラガード(出遅れ)・ポートフォリオでは、同組み入れ率は15%と低く、低炭素への移行を無視する企業は避けられる可能性があることを示唆しています。組み入れ比率が30%以上と高いのは、デンマークの公益事業会社オーステッド、伊電力大手エネル、およびアイルランドの建材メーカーCRHです。一方、組み入れ率が低いのは、ペルーなどに拠点を置く銅山会社サザン・コッパーと米公益事業会社ファーストエナジーです。

BIのリーダーズ・ポートフォリオには、BIカーボンスコアで上位25%の銘柄、ラガーズ・ポートフォリオには下位25%の銘柄が含まれます。

ESGファンド組み入れ率とBIカーボンスコア

組み入れ最高は気候対策に積極的な公益事業、最低は航空

BIカーボンスコアがより良い企業のESGファンド組み入れ率が高いことは、セクター別・地域別に見ても変わりません。しかし中には最上位と最下位の銘柄の差がもっと大きいセクターもあります。差が最も大きいのは公益事業セクターで、上位銘柄のESGファンド組み入れ比率の中央値は25%、下位銘柄では9%です。同セクターの企業が⼆酸化炭素削減目標を設定すると、投資家を引き付けることが示唆されます。一方、格差が見られない唯⼀のセクターは航空で、ESG投資家が同業界の⼆酸化炭素削減目標に無関心であることが示されています。航空セクターは依然として炭素依存型産業であることを踏まえると、このような無関心さはリスクを指すものであると同時に機会喪失も意味するといえるでしょう。

地域別で見ると、カーボンスコア上位と下位でESGファンド組み入れ率の差が最も大きいのは欧州で、最も小さいのはアジア・太平洋地域です。

セクター別ESGファンド組み入れ率

ESGファンドが時価14%のボリデン、その恩恵とリスク

ボリデンに代表されるBIカーボンスコア上位の小型企業では、時価の少なくとも14%はESGに配慮したファンドが保有しています。つまり、このようなファンドの運用資産が拡大し続ける利点があるわけです。しかし、依存率がやや高めであるため、ESGをめぐるネガティブな事態が発生しファンドに売られる、またはファンドの伸びが鈍化する場合には、これらの企業はリスクに直面しかねません。テスラなどの大型企業では、ESGファンドが時価に占める割合は1%で、これらのファンドの動向に影響を受ける可能性は低くなっています。

BIの分析には、ブルームバーグが追跡するESG要因を考慮した運用ファンドが含まれています。BIでは、2022年時点で運用資産額が1億ドル(約136億円)以上かつ保有銘柄データが取得可能な株式ファンドを対象としています。このため、実際の組み入れ率はさらに高い可能性があります。

ESGファンドが保有する株式の時価

BIカーボンポートフォリオの算出法

リーダーズ・ポートフォリオにはBIカーボンスコア上位25%の株式、ラガーズ・ポートフォリオには下位25%の株式が含まれます。BIカーボンスコアは、パリ協定の気候要件に沿った二酸化炭素削減目標を設定している企業を投資家が特定するのに役立ちます。スコアが評価対象とするのは、8つのセクターにまたがる⼆酸化炭素排出量の削減傾向、現在と将来の⼆酸化炭素排出原単位、⼆酸化炭素削減計画、および30年までの気温に配慮したベンチマークと比較した位置付けです。データ更新中の化学品セクターを除くすべてのセクターが算出に含まれます。

BIカーボンスコア

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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