ESGだけでなく現実を:ヘッジファンドから見たエネルギー移行

Read the English version published on November 16, 2022

本分析は、ブルームバーグ・インテリジェンスのヘッジファンドおよびプライベート市場アナリスト部門長のGaurav Patankar が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。

エネルギー移行を収益化するには、エネルギーと金属に対するバリューチェーン的アプローチが必要となります。また、特定の化石燃料(天然ガスなど)や金属(銅など)は当面なくなるわけではなく、移行における重要要素であるとの認識も必要となります。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)では、米ヘッジファンド、Geosphere Capital Managementの創業者かつマネジングパートナーで、エネルギー投資のベテラン、Arvind Sanger氏と会談し、エネルギー移行についてや、「ESG(環境・社会・ガバナンス)よりむしろ現実に目を向けることで持続可能なエネルギーセクターのアルファ創出が促進できる。」と言う彼の持論について討議する機会を持つことができました。

政治経済が石油と石炭の重要性を浮き彫りに

エネルギー移行の過程で従来型の資源が長期的に必要になるという現実は、世界中で受け入れ始めています。Geosphere Capitalとの討議で、2020年代の終わりまでは、安定した石油需要が続き、最終市場からの需要が高まる中で、天然ガスと原子力が移行燃料としての役割を果たすだろうという見方が話題となりました。特に重要なポイントは、ESG論議にあたり、多様な状況下で需給の不均衡が足かせとなり、政治経済、石油、石炭の3つの要因も重なって、当面この問題はなくならないだろうということです。

Global Energy Usage

エネルギー移行には地政学と友好関係が鍵

エネルギー安全保障においては、友好的な地域に資源と処理施設を確保する能力が必要となってきます。一般的には、最適な資本構成やフリーキャッシュフロー(FCF)利回りなどの構造的基盤がエネルギーセクターにとって下支えとなりますが、企業の資本構成判断の一部は、投下資本利益率だけでなく政治経済面での要因によっても左右されることになります。従ってこうした地理的・戦略的ニュアンスを理解し、ボトムアップのファンダメンタルズと結びつけることが、エネルギー移行の過程で持続可能なアルファ創出の鍵となると思われます。

Low Re-Investment Rates Drive Increased FCF

従来型金属がエネルギー移行の鍵

鉄鋼、銅、アルミニウムは、エネルギー移行の成功にとって極めて重要です。なぜならば、水力、原子力、太陽光、水素、風力その他さまざまなクリーンエネルギー技術がこれらの金属の供給を得られるかどうかに大きく依存しているからです。風力発電と太陽光発電には、火力発電に比べて5倍の銅が必要となります。また、電気自動車(EV)とその充電設備は、非電気自動車の3倍を超える銅を必要とします。

さらに興味深いことに、Geosphere Capitalによると、資源ナショナリズム(例:銅の約40%をチリとペルーが供給)と環境に関する社会的課題の狭間で、採掘に向けた現在の設備投資が、必要とされる水準をはるかに下回っているとのことです。このような状況は、マクロ経済環境のファンダメンタルズを意識する投資家が、エネルギー移行というテーマに対して交差連続的なアプローチを取り、独自銘柄の発掘機会を生み出すきっかけとなっています。

Conventional Metals Likely to Play a Key Role

エネルギー移行の需要を満たすには、採掘設備投資の倍増要

銅の需要が加速的に増加しつつある一方で、平均的グレードの金属需要は低下しています。資源ナショナリズム、ESGの懸念、企業のバランスシート、その他要因で、採掘設備投資が減少していることが主な原因です。しかしリチウムなどのレアアースの需要は、年平均65%を超えるペースで増加しており、投資能力を持つ企業にとっては好機となっています。レアアース採掘が地理的に中国に集中していることを考えると、チリやペルーなどの国に権益を持ち、これらの金属採掘への投資能力を持つ企業は、長期的に有利な立場に立つことになるでしょう。

Conventional Metals Poised to Play Critical Part

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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