ロシアによるウクライナ侵攻は、世界のエネルギー情勢を大きく変え、コモディティのサプライチェーンに深刻な打撃を与えています。日本においても、夏期の電力価格は過去最高水準に達し、冬期の電力需給はさらに厳しくなることが予想されます。現在の状況が日本の2050年ネットゼロ目標にとって何を意味するのか、そして野心的な2030年の排出量削減目標を達成するために、今、私たちが取り組むべきことは何でしょうか。
こうした課題を踏まえ、ブルームバーグNEF (BNEF) では9月28日、「BNEF Japan Forum : ネットゼロに向けた2030年までの道筋」を開催しました。産官学金から著名なゲストをお迎えし、プレゼンテーション、インタビュー、パネルディスカッションなど、様々なセッションを通して、多角的な視点からネットゼロ達成のための2030年までの道筋について、考察を深めました。
BNEFでは、これまで10年以上にわたり日本国内で脱炭素化戦略や技術についての最新動向や展望を共有してまいりました。本フォーラムが、よりクリーンな社会への転換を実現させるため、多くの方々にとって知識の共有の場となることを願っております。すべてのセッションはこちらからご視聴(10月31日まで無料公開中)いただけます。また、BNEFについてのお問い合わせはこちらから。
基調講演
青年環境NGO Climate Youth Japan代表 古賀 瑞 氏
基調講演には、気候変動に強い関心を持つ大学生を中心とした青年環境NGO Climate Youth Japan代表 古賀 瑞 氏が登壇。戦争勃発による気候危機への関心が下がり、野心的な目標が下がってしまうことへの危機感を滲ませつつ、未来世代である若者を代表して、気候変動問題、対策、現役世代への期待を述べるとともに、その流れを受け継ぐ者としての心構えを語ります。
BNEF講演 | ネットゼロへ:日本が2030年までに実施すべきこと
ブルームバーグNEF 日本・韓国市場 調査部門統括 デイビッド・ カン
2050年までのネットゼロの目標達成には 明確なマイルストーンが必要です。議論の焦点を現在の「 NDC(自国が決定する貢献)」というマイルストーン目標に絞り、電力部門では、政府の原発再稼働目標に伴う課題を明らかにするとともに、BNEFによる二つのシナリオを検証します。また、運輸部門に関しては、EV販売台数を世界と比較し、今後ネットゼロを軌道に乗せるためのシナリオを紹介。産業部門については、鉄鋼、製鉄セクターの課題と炭素価格との関係性を解説し、各国と比較した日本の状況をあぶり出すとともに、水素の持つ潜在的可能性にも言及しています。
パネル① |「経済・コモディティ市況の変化がエネルギー転換に及ぼす影響」
パネリスト(左下より時計回りに):金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー 池田 賢志 氏;東京大学 伊藤 元重 名誉教授自然エネルギー財団 事業局長 大林 ミカ 氏;ブルームバーグNEFアジア太平洋地域統括 アリ・ イザディ
もの作り大国として、原材料を輸入し、加工貿易国として栄え、いわば「化石燃料で成功した国」とも言える日本。金利差や地政学的な要因が引き起こした直近の化石燃料高騰の中で、日本が抱える構造的な問題を踏まえ、ネットゼロに向けた中・長期的な日本の道筋を探ります。求められているのは、政策の明確性と官民学金によるビジョンの共有、そしてスピードです。
エグゼクティブ・インタビュー | 金融業界のネットゼロ戦略
株式会社みずほフィナンシャルグループ執行役リサーチ&コンサルティングユニット長 兼 サステナビリティ推進担当 (グループCSuO)牛窪 恭彦 氏
昨今の金融業界を取り巻く ESGの現状、みずほの取り組みについて、このたびサステナビリティー推進の体制強化に向けて初代グループCSuO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)ESG人材育成、グリーンウォッシュ、透明性の確保へ向けた覚悟とは。(聞き手:ブルームバーグ・ニュースESG担当記者 梅川 崇)
BNEF講演|石炭火力発電所でのアンモニア混焼ー電力分野の脱炭素化への懸念
ブルームバーグNEF 日本電力市場アナリスト 菊間 一柊
アンモニアを混焼技術を活用することによって、石炭火力発電において、CO2排出量を削減できる道筋を探ります。日本および世界ですでに始まっている取り組みや計画をBNEFが今般発刊した「アンモニア混焼に関するレポート」とともに紹介します。分析結果として浮かび上がった高コスト、CO2以外の温室効果ガス、健康面への影響等を含む4つの課題について検証します。
パネル② |「水素は脱炭素の救世主となりえるのか」
向かって右端よりパネリスト:三菱重工業株式会社 シニアフェロー エナジードメイン エナジートランジション&パワー事業本部 エナジートランジション総括部長 正田 淳一郎 氏;千代田化工建設株式会社 常務執行役員 フロンティアビジネス本部長 松岡 憲正 氏;住友商事株式会社 エネルギーイノベーション・イニシアチブ 水素事業部長 市川 善彦 氏;ブルームバーグNEF 水素リードアナリストマーティン・ テングレル
アンモニアか水素か?脱炭素目標達成において、その可能性が大きく注目されている水素について、需要、製造、輸送、エネルギー安全保障の中での水素の役割という4つの側面から議論します。地球環境における脱炭素ー炭素を出さないソリューションを求めて、アンモニア、ターコイズ水素、合成メタンとさまざまなオプションを検証しながら2050年までの道筋を探ります。(モデレーター:ブルームバーグNEF 水素リードアナリストマーティン・ テングレル)
BNEF講演|気候テックにおけるベンチャーキャピタルの役割
ブルームバーグNEFグリッド&ユーティリティ・アソシエイトアナリスト アマンダ・ アール
BNEFの電力系統・電力事業の分析担当のアマンダ・ アールが、気候テックのスタートアップ企業の動向と注目される電力会社傘下のベンチャーキャピタル部門の状況を報告します。気候テック分野に集まる投資金額に関するBNEFの分析を紹介し、次に電力会社のコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)とスタートアップ企業の投資トレンドについて詳細に解説します。
エグゼクティブ・インタビュー|ネットゼロ達成に向けたスタートアップ企業の役割
株式会社パワーエックス取締役兼代表執⾏役社⻑CEO 伊藤 正裕 氏
ネットゼロを新たな事業機会ととらえるスタートアップ企業が増加しており、BNEFのデータによると、今、グローバルで2000社以上のスタートアップが気候変動分野で新たな事業に取り組んでいます。洋上風力でつくった電気を貯蔵する蓄電池とその電池を運ぶ電気運搬船を開発するスタートアップ企業、パワーエックスもそのひとつです。CEOの伊藤氏に次世代のエネルギーカンパニーの事業内容や、今後のビジョンをうかがいました。「マーケット自体が変容しており、評価すべき人もこれまでと違う」と語る伊藤氏が見据えるパラダイムシフトとは。(聞き手:ブルームバーグNEF日本サステナビリティアナリスト 品川 都志也)
パネル③|「運輸セクターの脱炭素化」
(向かって右端より)パネリスト:株式会社商船三井 執行役員 エネルギー営業本部(エネルギー営業戦略部、燃料部、LPG/アンモニア事業担当)一田 朋聡 氏;出光興産株式会社 執行役員 経営企画部 部長 石田 真太郎 氏;ANAホールディングス株式会社 上席執行役員グループCSO(Chief Sustainability Officer) サステナビリティ推進部長 宮田 千夏子 氏;ブルームバーグNEF 航空部門リードアナリスト川原 武裕
日本の脱炭素化と2050年ネットゼロ・カーボンニュートラル目標達成のために「2030年までに行うべき取り組み」として、脱炭素化の技術的ハードルが高い船舶・航空セクターに焦点を当て、各セクターにおける脱炭素戦略や中期目標への進捗状況や課題、長期目標を達成するための土台づくり、望ましい外部環境の変化についておききします。また、燃料の供給サイドからもお話をうかがいます。(モデレーター:ブルームバーグNEF 航空部門リードアナリスト川原 武裕)
BNEF講演|エネルギー移行におけるコモディティー市場の見通し
ブルームバーグNEF 日本・韓国LNGアナリスト オランプ・ マッテイ
欧州との競争により価格高騰が起こっているコモディティ価格。今後のガス、石炭、石油の需要の見通しから、日本はコモディティ価格へのエクスポージャーに今後も晒されるとし、脱炭素化へ向けた課題を読み解きます。