ESGにおける「S」の定量化:透明性、説明責任、進捗

Read the English version published on July 14, 2021.

2020年が、ESG(環境、社会、ガバナンス)の「S」にとって、節目の年となったのは間違いないでしょう。透明性や解決策を求め続ける投資家たちの声は、いまやより大きくなり、その要求がより組織的な形で見られるようになっています。こうした要求の高まりは、数十年来で最大となった公民権運動が起こった結果としてもたらされましたが、その背景には、優秀な少数派(マイノリティー)が就職や昇進のチャンスを逃し、それらを白人男性に譲るというケースがこれまで多く続いてきたことがあります。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)も格差を拡大させる結果となり、2020年3月以来、女性や有色人種の失業率は最悪となっています。

ブルームバーグ主催の最近のトークイベント「Quantifying the S in ESG(ESGにおける「S」の定量化)」では、Franklin Templeton社のダイバーシティ最高責任者であるRegina Curry氏と、 Clorox社のグローバル・インクルージョン&ダイバーシティ担当バイスプレジデントであるGermaine Hunter氏が、ソーシャルデータ需要の増加や、平等性に関する全般的なビジネスケースについて解説しました。なお、司会はブルームバーグ男女平等指数(GEI)のプロダクトマネジャーであるSabina Mehmoodが担当しました。

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投資家の関心

データと透明性に対する要求の拡大に関する冒頭のコメントとして、ブルームバーグ・インテリジェンスのESGシニア・アナリストであるEric Kaneは、同氏が最近の傾向と考える、ESGパフォーマンス、特に「S」を将来価値に連動させる動きについて、その概要を述べました。

全体的な投資家の関心としては、ソーシャルデータの開示も増加しています。「主要なソーシャル指標に関して、企業は自社の透明性をますます向上させています」とKaneは述べています。「透明性の向上に伴い、ESGをテーマとした上場投資信託(ETF)、特にソーシャル要因に特化したETFの開発も増加しています」こうした金融商品には、性別やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)関連データが関与します。ブルームバーグのデータによると、こうした金融商品に対する関心と投資額は、過去5年にわたり拡大を続けています。

ここで、Sファクターに関する企業パフォーマンスを計測する方法に注目することが重要です。ブルームバーグのさまざまな評価方法のうち、重要なものの1つにESGスコアがあります。「これらのスコアと、スコアの算出に使用されるデータは、その計算法と同様に、完全に透明性があります」と、Kaneは述べています。「スコアは定量データに基づいて算出されるものであることから、透明性が必要となるのは明らかです。これらのスコアは、企業が開示している情報のみに基づいており業界固有のものです。弊社は、特定の業種にとって最も重要であると思われる問題を環境面と社会面の両方で特定し、それに応じて企業にスコア付けをします」

透明性が説明責任を向上させる

2021年には、企業社会にD&Iに関する圧力を加える投資家が増加し、彼らは特に上級管理職の労働力が米国人口の全体的な多様性を反映するよう求めています。ブルームバーグ・インテリジェンスによると、医薬品価格、労働者賃金、サプライチェーンの精査などのトピックを含む、主要な社会問題全般に関する決議が92件に上りました。他のESGファクターと比較してみると、4月15日時点で、ガバナンスに関する提案は43件、環境に関する提案は30件でした。

こうした要求の高まりは、企業社会全体で整備が進んでいるD&Iに関するポリシーとプロセスに実質的な影響を与えているのみならず、各企業の社風や人材の獲得・維持能力にも同様の影響を与えています。多くの企業では、D&Iイニシアチブの価値と、多様で公正な職場を創出することの価値は理解されています。しかし、各社は必要な変革を推進するためにどのようにデータを活用しているのでしょうか。

「Cloroxでは、透明性に関する大きな取り組みが進められています」とHunter氏は述べています。「当社にはESG開示の原則があり、これに従って、戦略に焦点を当てたバランスを確保しながら、社内外すべての利害関係者の利益に照らして透明性を提供しています。透明性が成長と改善をもたらすという考えの基、人的資本に関する開示へのアプローチについては、引き続き多大な取り組みを行っていきます」これらの目標は、企業が将来を見据え、リーチを拡大する方法を模索する中で、過去の開示やその枠組みを超えていくものでもあります。「当社は開示の拡大にコミットしています。質の高いデータは、すべての利害関係者がより良い意思決定を行うのに役立ちます」と、Hunter氏は説明します。「これらのプロセスは、現在だけでなく将来的にも有益と考えられます」

格差の識別

企業や経営幹部にとって、計測されていないデータを管理することは不可能です。そのため、格差や問題分野を識別することが重要であり、それを通して社内サポートを発展させて構築する機会が提供されます。

「データを使用すると、このような課題の議論から感情的要素を取り除くことができます」と、Curry氏は述べています。「数値が好ましくない場合、従業員データ、代表的なデータ、またはエンゲージメントなど複数のデータポイントを利用します。これらの情報を見ながら、一緒に仕事している幹部らに、何年もかけ現状に至っていることや、私たちに変化をもたらす責任と説明責任があることを再認識してもらいたいと考えています。つまりこれは、現状をしっかりと見極め、他の事業目標と同じように目標と対策を設定し、現時点で実現可能な課題について、迅速かつ長期的に真剣に取り組むことを意味します」

ターゲットとデータの透明性は、まず定量化する対象を理解することから始まります。例えば、ブルームバーグ男女平等指数(GEI)調査票は、効果的な変化を管理するために、企業が測定できる事項を把握するための設計図を企業に提供しています。この調査票はブルームバーグが提供する多くのツールの1つとして、企業が自社の進歩に対する責任を持つことができるよう支援するものです。一方、GEIの総合的なスコアリングプロセスはさらに一歩先を進み、企業が同業他社と比較する上でのベンチマーク設定を可能にし、改善の余地のある箇所を正確に把握することを可能にします。また、時間の経過とともにデータターゲットのどの部分から利点を得られるかを特定することもできます。

企業は、自社のソーシャルデータを正直に観察することで、平等性に関するビジネスケースの構築に集中しながら、自社文化が、拡大と変化を続けるこの世界を反映したものになるように取り組むことができるのです。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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