Read the English version published on February 15, 2021.
本稿は、Raconteur’s Sustainable Investing(サステナブル投資)リポートとして、The Sunday Times に掲載されたものです。
現在、投資家は、環境、社会、ガバナンス(ESG)をうたった商品に多額の資金をつぎ込んでいます。しかしその裏付けとなるデータの入手可能性や品質には多くの問題が残っています。そのためデータの一貫性、信頼性、透明性の向上が喫緊の課題となっています。
環境や社会に配慮した企業の株式や債券は、地球に優しく、かつリターンも得られるとして以前からもてはやされてきました。しかし2020年にはESG資産の運用額が38兆ドルを記録し、さらに今後5年間で53兆ドルに達するとブルームバーグでは予想しています。ここにきて、サステナブル投資が名実ともに投資の本流となりました。
このように運用額が急増する一方で、ESG投資に対する市場の信頼を揺るがす深刻な問題も起きています。その最たるものは、企業が環境に配慮していると巧妙に見せかけるグリーンウォッシングでしょう。もう一つの問題は、正確かつ比較可能な情報の不足です。ESGに関する企業の開示には統一性がなく、市場リサーチレポートも推計や業界平均などに基づくものが多く出回って、投資家は苦慮しています。
「投資家が金融業界に求めているのは、リスク調整後の長期的なポートフォリオリターンを向上させる真のサステナブル商品への投資です。これに対応するためにファンドマネジャーが必要とするのは正確なデータです。正確なデータがなければESGに関する投資判断の根拠を投資家に説明することができず、投資家の批判にさらされることになります」と、ブルームバーグでサステナブルファイナンスソリューションのグローバルヘッドを務めるPatricia Torresは述べています。
ESG市場の急速な成長も、マーケティング上の宣伝に実際のESG投資の効果がついて行けないという問題を生み出しています。投資家サイドの動きも、当初は、例えば化石燃料から多額の利益を得ている企業への投資を控えると行った単純なものでしたが、やがて投資判断のベースとしてより詳細なESG格付を使用することを求めるようになりました。
「ESG投資がここまで拡大した現在、改めて投資判断のベースとして使用しているデータを調べてみると、大規模な不整合や間違い、さらには誤解を招くような宣伝があったことが判明してきました。これまでのESG戦略は本当に正しいものであったのか、運用会社に対して突然疑問が投げかけられたのです」とTorresは述べています。
投資家の期待と企業や運用会社の言い分との乖離(かいり)については規制当局も注目しており、ESG投資の定義や基準、開示などについて明確な基準を策定しようと動いています。
その先陣を切っているのがEUで、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を取り込んだ明確なタクソノミーを公表しました。このタクソノミーには、サステナブル事業の分類方法、運用会社によるESG運用戦略の定期的な開示、首尾一貫した基準とガバナンス、投資家がポートフォリオのパフォーマンスを評価するためのベンチマークなどが規定されています。
「最初の目的は、単に企業同士を比較するのではなく、各国の気候変動に関する誓約に適合するサステナブル分野に資本を誘導することでした。また規制当局も、機関投資家が気候変動のシステミックリスクを適切に評価できるようにしたいと考えています」と、ブルームバーグでサステナブルファイナンスのビジネスマネジャーを務めるNadia Humphreysは述べています。
「欧州の運用会社がESG報告とモニタリングを一貫して適切に行うためには、ポートフォリオに組み込んだ企業の活動を完全に理解する必要があります。これは、規制当局が企業や運用業界を巻き込んで初めて引き起こすことができる変化です。EU制度の最大の目標は、カーボン排出量は気にするが廃棄物管理や生物多様性は無視するといった狭い視点ではなく、全ての課題を総合的に理解する視点の導入にあります。これがESGのインパクトを真に測定する唯一の方法です」とHumphreysは述べています。
ブルームバーグは、透明性が高いマーケット情報を抽出、表示する手法を確立し、その手法をESGファクターの基準やインデックス、分析に適用しました。その結果、信頼性が高い多様な情報を、広く利用されているブルームバーグターミナル上で投資ファンダメンタルズに関連付けられた実用的な形式で利用できるようになりました。全てのコンテンツは、通常のリスクシステムやモデリングシステムに統合可能です。また、ブルームバーグ上ではESGと投資データを関連付けた分析も可能で、強固で明確な知見をスマート戦略に反映させることもできます。
「ブルームバーグの全てのチームは、各企業のESGデータへのアクセス、キュレーション、プレゼンテーションに完全にフォーカスしています」とTorresは述べています。業界平均、アルゴリズム、企業レポートの曖昧な文章の分析に大きく依存するこの分野において、ブルームバーグは最新の機械学習と何百人ものデータ分析スタッフの専門知識を活用することにより他社との差別化を図っています。
ESG投資家が拡大を続ける中、Torresは特にサステナブル債券やローンが今後顕著に拡大すると予想しています。実際、ブルームバーグの集計によると2020年には過去最高となる7320億ドルのサステナブルデットが発行され、特に新型コロナウイルスの感染が拡大する中で景気刺激策を取る政府による資金調達が目立ちました。また民間企業も、温室効果ガス排出削減や生物多様性保全などのイニシアチブに充てる資金を調達するために債券やローンを発行するなど、多くの企業が明確なESG目標を立てて資金を調達しました。
ESG投資は今後5年間で40%以上の成長が見込まれており、運用会社や年金基金などに対する投資家や規制当局の期待は高まるばかりです。そこで求められるのは、高度に比較可能で完全な一貫性を備え、迅速なアクションを可能とする正確な情報へのアクセスです。運用の成否は、そうした情報へのアクセスを迅速に得られるかどうかにかかっています。
「Sustainable Investing (サステナブル投資」)原文はこちらから閲覧いただけます。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。