Read the English version published on October 25, 2022.
ブルームバーグが最近行ったアンケート調査では、企業幹部の85%が気候リスクの評価を始めたと回答しています。一方で、投資ポジションを取ることはデータのモデル化同様に占いのような要素が強いようにみえるかもしれません。本稿では、ブルームバーグで気候ファイナンスソリューションのプロダクトマネジャーを務めるEdo Schetsが、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資において投資家が実施すべきリスク評価について解説します。
気候変動に関するプロジェクト「New Climate Economy」による最近の報告書によると、ネットゼロへの移行は2030年までに最大で26兆ドルの投資と雇用創出の機会をもたらす見込みです。しかし投資家たちは、信頼できるプラットフォームを活用して気候問題を巡る美辞麗句や企業の約束事を取捨選択しない限り、全体像を把握できないまま、こうした機会を正しく評価することができません。
例として、セメント事業を運営しており、当然ながら炭素排出量が多い、ある企業を考えてみましょう。排出量削減のためにカーボンオフセットを進めるプロジェクトを立ち上げ、資金調達手段としてサステナビリティ・リンク・ボンドを発行するとします。その結果、このセメント会社は自社の目標と政府が定める法律の両方を満たすことになると考えられ、このセメント会社の株や債券の購入が、投資会社にとって大きな妙味がある可能性が突然生じます。
気候変動があらゆる産業や事業に影響を及ぼす中、投資判断材料としてESGを巡るコミットメント、行動、活動といった要素を考慮することは今や不可欠です。それでは投資家たちは、データや知見をどのように活用すれば正しい意思決定ができるのでしょうか。
気候リスクの評価が非常に困難な理由は?
気候変動関連リスクは、「従来の」金融リスクよりも測定が困難です。なぜなら、気候変動に関しては、過去のパターンに注目するというリスク管理の通常の手法ではなく、将来を見通すことが必要になるためです。さらに、気候変動は1つの事象ではなくプロセスであるため、その影響は進化し、今後5-10年、そして今後20-30年でまったく状況が変わってしまう可能性さえあります。
2020年に発生した豪州の山火事による被害額は50億ドル、米国西海岸の山火事の被害額は200億ドルと推定されています。同年のパキスタンでの洪水は15億ドルの被害をもたらし、同国では最近も同じような事態が発生しています。気候科学者の想定では、最良シナリオでも、地球温暖化により2100年までに気温は1.5℃上昇し、物理的リスクは現在よりも大きくなると予想されています。そのため、投資家たちが懸念を抱くのはもっともと言えますが、現時点で投資家たちが取り組んでいる重要課題は気候リスクの管理方法です。
投資家が気候変動を金融リスクとして評価する方法とは?
気候リスクは大きく2種類に分類され、両者は相互に関連し合っています。1つ目は洪水や暴風雨による資産の物理的リスクで、2つ目は低炭素経済への移行に伴うリスク(例えば、化石燃料の埋蔵量を償却する必要がある場合など)です。
大規模なローンや住宅ローンのポートフォリオを持つ企業は、海面上昇、干ばつ、その他の悪条件がニューノーマルとなったときに、どのような影響を受けるかを自問自答する必要があります。高排出企業に投資している企業は、より厳格な規制が施行された場合を想定した自社の投資ポジションの評価を実施すべきでしょう。
こうした評価を実施した上で、さらに少なくとも3つの課題があります。1つ目の課題は、適切なデータをいかに見いだすかということですが、これは気候変動が過去のデータにうまく反映されていないためです。つまり、将来的なリスクを把握するために、シナリオや気候モデルに頼ることになります。2つ目の課題は、多くの地域が猛暑や異常降雨といったより厳しい悪天候に今後直面すると考えられる中、こうした前例のない事象が財務評価に及ぼす影響を推定することの困難さです。3つ目の課題は、たとえ今後起こり得る事象を推定するデータやモデルがあったとしても、こうした情報をどう活用すべきかの判断が難しい点です。これは、各シナリオが現実化する確率の不確実性が非常に大きいためです。
気候リスク評価する人々を待ち受けている未来は?
今後、私たちが低炭素経済への移行に成功した未来は訪れるのでしょうか。すなわち、大きな移行リスクを抱えつつも、結果的に物理的リスクを低く抑えることができるのでしょうか。それとも、十分な対策を講じることができず、より深刻な物理的リスクに直面することになるのでしょうか。ブルームバーグは、あらゆるシナリオを検討し、さまざまな結果の確率に基づいてリスクを推定するソリューションの開発に取り組んでいます。
しかし、企業は自社がさらされている気候リスクに関する完全なデータを開示していないことが多くあります。開示している場合でも、データ提供は任意で監査を受けていないため、信頼できるデータとは必ずしも言えません。ただし、新しい開示規則が、特に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の開発によるフレームワークとともに施行されれば、データの質、一貫性、入手可能性は向上するでしょう。
今後2~5年で気候変動に関する政府の戦略が投資家に与える影響は?
企業が気候リスクを考慮する理由はさまざまですが、規制はそのパズルの重要な一要素です。国連による数々の取り組みや、450社が加盟する「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」の設立により、温室効果ガス削減の機運は高まっています。政府や規制当局が、金融機関に対して気候候変動に関する調査を実施することも増えています。ブルームバーグが最近行ったアンケート調査では、「規制と情報開示の要件」と回答した人が全体の25%を占めトップとなりました。イングランド銀行(英中央銀行)も、銀行や保険会社に対し、パリ協定に沿って各国が排出量を制限した場合、あるいは介入が限定的で経済が異常気象による物理的リスクに直面した場合、保有資産がどのように変化する可能性があるかを評価するよう要請しています。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。