⽇本の新型コロナワクチンと治療薬、後発でも価値は⼤きい

Read the English version published on April 15, 2020.

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、Caroline StewartとMarie-Christine Yoko Hussが執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。

日本の新型コロナワクチン開発海外の競合品に立ち遅れてはいますが、既存のワクチンが新型コロナウイルス変異型を抑制できない場合には有益となる可能性があります。ワクチン不足を背景に、また第4世代のワクチン開発中においては、治療薬が必要とされるからです。

小野薬品工業と日医工の膵炎治療薬は新型コロナウイルス感染症早期の治療に有望視されています。一方、第一三共は日本でのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン開発の先導役となるとBIでは見ています。

小野薬品の膵炎治療薬が有望

小野薬品工業の「フオイパン(カモスタットメシル酸塩)」は入手しやすい安価な経口のジェネリック(後発医薬品)であり、治験が成功すれば新型コロナ感染症早期の有効な治療オプションとなる可能性があります。第1相試験の詳細は公開されていませんが、その結果に基づいて新型コロナウイルスに対する用量は2400ミリグラム(600ミリグラムを1日4回服用)とされ、膵炎での1日600ミリグラムより高くなっています。過去の試験で900ミリグラムの用量を8週間継続した場合には副作用が見られましたが、新型コロナ感染症試験では治療期間は2週間のみでした。「フオイパン」は、新型コロナウイルスの細胞侵入を助ける酵素TMPRSS2を標的としており、ウイルスの力価を早期に低下させることによる重症度の低下が期待されています。第3相試験における早期疾患の主要評価項目は、検査結果が陰性となるまでにかかる時間です。疾患の後期には、ウイルス量は重症度と相関しない可能性があります。

キーポイント:
  • Clinicaltrials.govによると、日本での「フオイパン」の第3相試験は5月に完了予定
  • 「フオイパン」の物質特許の期間は満了しており、小野薬品は多大な利益を期待せず日本市場向けのみで薬剤開発を行っている
  • 小野薬品の「フオイパン」生産能力は開示されていない
参考文献: Cell Article on Potential of Camostat Mesylate (Ono’s Foipan) to Treat Covid-19

 日医工の多面的アプローチ

日医工は、新型コロナ感染症患者に対するいくつかの治療薬オプションを検討しています。膵炎治療薬「フサン(ナファモスタットメシル酸塩)」は、試験管内で新型コロナウイルスの細胞侵入を阻止でき、血栓の予防でも承認されているため、新型コロナ感染症患者においても幅広い重症度で有用となりそうです。東京大学が行った実験によると、「フサン」は小野薬品の「フオイパン」の10分の1の濃度で効力を発揮するとしています。しかし、同剤は持続点滴で投与されるため、新型コロナ感染症早期の患者にとっては利便性が低いといえます。そこで同社は、第一三共、東京大学、および理化学研究所との協働で吸入式製剤の開発を進めています。また、日医工は小野薬品の「カモスタットメシル酸塩」を大幅に低い用量で検討しています。第2相試験は完了していますが、結果はまだ未公表です。

キーポイント:
  • 生体外実験では「フサン」の濃度1-10ミリモルの範囲が有効で、中東呼吸器症候群(MERS)に対する有効範囲とほぼ同じ
  • 生体外実験では、293FT細胞(ACE2とTMPRSS2を異所的に発現した)とCalu3細胞をヒトコロナウイルス感染症のモデルとして使用した
  • カモスタットメシル酸塩は、米国国立アレルギー感染症研究所による外来患者を対象とした新型コロナ感染症治療薬の臨床試験プロジェクト「ACTIV-2」に追加された4つの治療薬の一つ

第一三共のワクチン、国内首位に躍り出るか

日本の新型コロナワクチン開発の先頭に立つアンジェスと塩野義製薬は試験の詳細データをまだ公表しておらず、後発の第一三共が好調なデータを出し、国内製薬会社の一番手として承認を得る可能性もあります。同社は、健常日本人の成人(20-65歳)と高齢者(74歳まで)を対象とした第1/2相試験で、mRNAワクチン「DS-5670a」を最大100マイクログラムまでの用量で検討中です。欧州からのファイザー/バイオンテックのワクチン供給が止まる可能性もあり、国内企業がワクチンを提供できるようになることが肝要です。

また、第一三共の「エドキサバン」については、病院外で新型コロナ感染症患者を対象に血液凝固抑制作用を評価する第3相試験が行われています。そのデータは2021年の終わりに出る見込みです。

キーポイント:
  • アンジェスによる新型コロナウイルス DNAワクチン第1相試験の詳細は提供されておらず、日本での後期臨床試験の被験者数は約500人の予定
  • 塩野義の新型コロナワクチン第1/2相試験についての最新速報はまだ出ていないが、試験は2020年12月に開始され、今年2月末以降の最新情報開示が見込まれていた
  • 塩野義は、年内に3000万人分のワクチンを提供する意向を示している
  • モデルナのワクチンはmRNAを100マイクログラム、ファイザーではそれよりはるかに少量の30マイクログラムを含有。第一三共では10、30、60、および100マイクログラムの含有量を試験中

本リサーチは英文で発行されたリポートを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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