Read the English version published on September 29, 2022.
この記事は、ブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューションズのビジネスマネジャーで、欧州委員会のサステナブル・ファイナンス・プラットフォーム委員でもあるNadia Humphreysが執筆しました。
MiFID IIの適合プロセスの見直しの一環として、2022年8月から投資運用会社は投資商品の販売時に個人投資家のサステナビリティ選好を考慮することが義務付けられました。これにより、運用会社は個人投資家に対してサステナビリティ選好の有無をヒアリングするだけでなく、特に商品におけるサステナブル投資(SI)の程度を定量化できる必要があります。基本的には、この施策は大きな前進であり、投資商品に含まれるESG要素と本当にサステナブルな要素の割合というこれまで切望されていた情報を一覧で提供することになります。しかし現実的には、この要件の適用は意図しない結果を招く可能性があり、企業は報告すべき情報の最低ラインを理解し、一般的な商品提案に注意する必要があります。
算出法
投資会社を支援するため、欧州監督当局(ESA)は、商品に含まれるSIの定量化に必要な「主要な悪影響(PAI)」の指標を定義しました。PAIには必須と任意のものがあり、商品の提供会社は投資評価に基づいて使用するかどうかを選択することができます。必須指標には、炭素排出量および化石燃料へのエクスポージャー、そしてグローバル企業ではあまり報告されていない男女間の賃金格差などがあります。
そして、商品に含まれるSIを定量化するために、SFDR第2条17項では、次のように大きく3つのステップを明確化しています。
- 目的への貢献:サステナブル目的の対象は「社会」または「環境」で、商品に固有かつ測定可能であること。
- 「著しい害を及ぼさない(DNSH)」:商品提供会社は、PAIを考慮する必要がある。つまり、PAI指標を用いて、サステナブル投資が環境や社会の目的に著しい害を及ぼさないことをチェックすること。なお、規制当局はDNSHの目的のための基準を設定していないため、PAIをどのように考慮するかは商品提供会社が定義し、開示という形で顧客に提供すること。
- グッドガバナンス(良い統治):すべての投資先企業は、健全な経営構造、従業員関係、従業員報酬、税務コンプライアンスなどの基準値を満たすこと。
このアプローチは、「健康」と表現される食品の栄養表示に似ています。「健康」の定義にはさまざまなものがありますが、すべての食品製造業者は、脂質、炭水化物、タンパク質の含有量について基準値を示すことになっています。「サステナブル投資」と表現される金融商品も、同様の基準データを提供し、どのように「サステナビリティ」が達成されたかを説明する必要があります。
最も重要なことは、商品によって目的が異なるということです。例えば顧客が脱炭素型投資を好む場合、その目的は投資先企業の炭素排出量に関連し、顧客は投資先の炭素排出量が一定期間で減少することを期待できます。
市場からの懸念
当然のことながら、SI値が高いだけでフローが促進されるのではないかという懸念があります。サステナブル投資を構築するための明確で比較可能な方法がないため、このツールは誤用される可能性があるのです。上記の例では、仮に顧客が脱炭素化率を測定するSIを使う代わりに、ESG評価やスコアの量または質を示す一般的な指標を使用した場合、そのスコアや評価は炭素を考慮するかもしれない一方で、ファンドの目的に対応する最も重要な指標である可能性は低いでしょう。
それだけでなく、以下のようなあしき慣行が生まれ始めています。
- 投資目的が商品特有ではなく、一般的なESGデータに基づいている
- 商品提供会社は投資がPAI指標に基づいたDNSHの程度を開示せず、他のデータセットを「著しい害」の代用として使用している
- 商品提供会社は社会的論争を生まないことをグッドガバナンスと定義している
企業は欧州委員会からのさらなるガイダンスを切望していることもあり、ESAは最近、こうした懸念の一部について明確化を求める一連の質問状を欧州委員会に提出しました(リンク)。それまでの間は、開示すべき情報の基準を理解し、一般的なサステナブル投資の提案に注意することが重要でしょう。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。