乱高下する市場で真価を発揮する債券取引の自動化

Read the English version published on October 5, 2020.

新型コロナウイルスの感染拡大が、バイサイド金融機関による債券取引自動化の流れを加速させています。しかし、ボラティリティの拡大は自動化テクノロジーの利用を抑える方向に作用すると考えるのが普通ではないでしょうか。

通常の市場環境では、電子取引を拡大する過程で取引プロセスの最適化や新しいテクノロジーのテストという形で自動化テクノロジーの導入が進み、新しいツールやコンポーネントが徐々に日常業務の中に取り込まれていきます。

しかし市場が乱高下している場合にはマニュアル取引が必要となります。しかも、現在の市場乱高下は、在宅勤務をはじめとする新たな要因が作用しているという点で、これまでとはその性質が全く異なっています。過去には考えられなかったことですが、コロナ渦において銀行や運用会社が出社せずにリモートワークで仕事をするというニューノーマルが機能することが実証されました。

ただしほとんどの市場参加者にとって、リモートワークで使用できるスクリーンの数やサイズはオフィスに比べて小さくなるため、新たなソリューションが必要となります。業務のあらゆるプロセスを新しい市場環境、新しい作業環境に適応させ、電子化する必要に迫られたのです。このため、通常であれば徐々に進むはずの自動化の導入が、まさに革命的なスピードで一気に進みました。コロナにより、取引自動化のメリットを認識する市場参加者の数が大きく増加したことは明らかです。

一般的に、自動取引に関するルールは通常の市場環境下で作成されます。このため、市場におけるディーラーの応答性やスリッページの許容幅などの条件が安定していれば、自動取引はうまく機能します。しかし、新型コロナウイルス感染拡大を機に市場環境は一変しました。その結果、ルールエンジンのパラメータを新たな市場環境に合わせて調整していなかった企業では成約率が低下しました。

取引実務の観点から見れば、リモートワークの場合には使用できるスクリーンの数やサイズがオフィスに比べて小さくなるため、少額取引などの標準的な業務でも余計に時間がかかりミスも起きやすくなります。しかし、そうした環境下においてでも債券取引の自動化を積極的に推し進めれば、競争上優位に立つことができます。少額の時間がかかる取引はロボットに処理をさせる仕組みを迅速に導入すれば、トレーダーはデスクの収益により大きく貢献する他の業務に集中することが可能となります。結局、現在の不透明な市場環境でより複雑な取引をこなすことについては、ロボットよりも人間の方が勝っているのです。

高ボラティリティの市場環境に適した自動システム

新型コロナウイルスは金融業界に幅広い影響を及ぼしました。バイサイド金融機関やそのトレーダーは、まだ対処方法を学んでいる過程にあります。それでは、市場が乱高下し、しかもほとんどの従業員が在宅勤務を強いられる状況に対処するためには、スマート・オーダー・ルーター(SOR)やルールベースエンジンをどのように設計すればよいのでしょうか。

まず、システムがボラティリティを検知することができ、かつボラティリティを検知した際に自動的に取引を実行しないように制御する仕組みが必要です。また、トレーダーが自動取引のルールのオン・オフを適切に切り替えることができる仕組みも必要です。しかし、トレーディングデスクがルールをオンに保つためには、コンポジットプライシングの許容度などのパラメータをダイナミックに調整することができなければなりません。この点については、システムが市場環境に合わせて執行パラメータを調整することが理想です。また、自動システムによる取引執行が難しい場合には、システムが自動取引プロセスにトレーダーを介入させ、トレーダーがRFQ(気配提示依頼)を引き継ぎ、マニュアルで取引を執行する必要があります。

これから自動取引テクノロジーを導入する企業は、システムを内製化するか外注するかをまず決める必要があります。自社でシステムを所有すれば、発注の段階からコントロールが可能ですし、流動性を比較して利用可能な最良のベニューにオーダーを流すことができます。一方で、取引に関する判断を取引ベニューにアウトソースし、そこの自動システムを利用することも可能です。

内製化を選択した場合、次に決めるべき問題はSORを自社で開発するか、あるいは外部から購入して自社システムに組み込むかです。現在、SORプロバイダーはわずか数社しかありません。一方でSORの導入は困難で時間がかかる可能性があるため、自社の発注管理システム(EMS)上で稼働するルールベースエンジンをソフトウエアプロバイダーから購入して1つまたは複数の取引ベニューに接続する方法もあります。SORかルールベースエンジンかの選択にあたって考慮すべき点としては、流動性アクセス、キルスイッチなどのシステム制御、使いやすさ、インターフェースのカスタマイズ性などがあります。

アフターコロナの働き方に自動化が及ぼす影響

将来的には、より多くの企業がより柔軟な勤務形態を導入することになるでしょう。大手の銀行や運用会社の従業員のほとんどが在宅で勤務しても、オフィス勤務の場合と同じ効率性を維持して業務が継続できるなど、コロナ以前には想像もできませんでした。英国のある統計データによれば、過去数年間に主に在宅で勤務をしていた人は約5%に過ぎませんでした。新型コロナウイルスが勤務形態に及ぼす影響は長期にわたると考えられることから、今後この数字は大きく増加する可能性があります。

自動化について言えば、企業はリモートワーク中に自動で執行される取引の比率を上げ、かつ営業時間内に集中させるようになるでしょう。そのためには、取引システムの柔軟性が現在も、将来にわたっても重要なポイントとなります。

さらに自動化は、付加価値の高いタスクに専念する時間をトレーダーに提供するだけではなく、人材の確保にも役立つことが期待されます。優秀な人材は自動化テクノロジーを積極的に活用する企業に魅力を感じると考えられるからです。このため自動化をニューノーマル下における人材獲得の重要な要素として捉えることが必要です。

今後もコロナの影響により予測不可能な市場の変動が起こり、在宅勤務は長期化するでしょう。そうした新たな環境を乗り切るためには自動化が必要不可欠であることが今回のコロナ渦で実証されました。コロナ感染拡大という困難を克服するためにどのようにシステムを構築して競争優位を勝ち取るかという点に、改めて市場参加者の関心が集まっています。