コモディティーヘッジを始める前に知っておくべき5つのこと

Read the English version published on October 5, 2022.

はじめに

コモディティーヘッジへの関心が近頃高まっています。その背景を端的に表すとしたら、「ボラティリティーの高さ」と「流動性の低さ」といえます。

ボラティリティーについて今年の原油市場を見ると、ブレント価格が1日に5%以上変動した回数は過去30年間で最高水準となっています。こうした急激な値動きは、原油の大口需要家に打撃を与えています。特に、2022年に向けて積極的なヘッジプログラムを導入していた米国の航空会社はごくわずかで、こうした企業に大きな影響が及んでいます。2020年に航空業界全体が損失を受けた際、ほとんどの航空会社はヘッジプログラムを停止しましたが、その後は再開の検討を進めています。さらに、全く別の業種、特に製造業とトラック運送業で、ボラティリティーに伴うリスクを管理する新たなヘッジプログラムを確立している企業が出てきています。こうした現状から、2022年は消費者向けヘッジがここ数年で最も盛んに行われています。

体系的なヘッジの利点は明確です。ヘッジを行っている航空会社では、ジェット燃料油の市場価格が150%も上昇した期間でも、自社の燃料費は前年比で平均50%増にとどまっています。実際、サウスウエスト航空やエールフランスなどの航空会社は、燃料油のヘッジからそれぞれ10億ドル以上の利益を得ています。

一方で、原油生産企業は、原油価格が歴史的低水準に達した2020年以降、積極的にヘッジを行ってきましたが、原油高騰の恩恵を確実に受けるために2022年を通じてそのヘッジを解消しています。さらに、コモディティー市場は、この後説明するさまざまな理由から深刻な流動性危機に直面しています。こうしたボラティリティーの高さと流動性の低さが相まって、コモディティーへのエクスポージャーを持つ財務デスクは間違いなく難題を突きつけられています。

本稿では、トレジャリーマーケット・スペシャリストのAlison Fletcherと、原油エキゾチック・精製品トレーダーの元総括者で現在はブルームバーグのエンタープライズリスク部門総括者のDharrini Bala Gadiyaramが、「新たにコモディティーヘッジを始める投資家が知っておくべき5つのこと」について質疑応答形式で議論します。

財務デスクが行うヘッジは、店頭(OTC)デリバティブ、または上場先物・オプションのどちらが良いか

OTCデリバティブは、ヘッジのカスタマイズにおいてはるかに多くの機会を提供します。ゼロコストのデリバティブ構造、延長可能スワップ、繰り延べプレミアム・オプションなど、バランスシートに合わせたヘッジを行うことができます。一方で、流動性が低い場合はマーケットメーカーのマージンが高くなるので、取引所に上場されているデリバティブを利用することは執行コストを最小化する良い方法といえます。

ただし、取引所上場商品にはそのほかに考慮すべき点があります。財務デスクはマージンを計上・維持する必要があり、取引所が定義する標準的な満期日は必ずしもエクスポージャーの日付と一致しないことも考えられます。これは、ヘッジ会計基準を適用する際に問題となる可能性があります。

各期間構造の流動性とプロキシ(代替)ヘッジの使用について

各期間構造の流動性については、エネルギー上流企業は2年から3年先、場合によっては4年から5年先を見越したヘッジを行うのが最も一般的です。石油・ガスの採掘は資本集約的な事業であり、価格変動が激しい時期でさえも事業の平準キャッシュフローを維持することが重要だからです。対照的に、原油の需要家企業は1年以上先までヘッジすることはあまりありません。これは、コモディティー価格高騰時にヘッジが十分でなかった場合でも、燃料サーチャージを消費者に転嫁するなど代替メカニズムを持っているためです。

それでは、現在のコモディティー市場を取り巻く流動性危機の原因は何なのでしょうか。過去数カ月間で各国の中央銀行は利上げを開始し、マクロ投資家はインフレヘッジ、特にコモディティーETFを引き揚げてきました。また、今年の高ボラティリティー相場から生じたマージンコールの規模は、特にガス市場や電力市場において、使用できる現金の多くも一掃してしまうほどでした。市場の流動性を測る指標として、先物全体の建玉残高があります。原油市場を見ると、現在の建玉残高は2021年半ばに記録したピークの60%程度にとどまっています。

このような状況下では、流動性の源泉をいくつか分散して持ち、プロキシ(代替)ヘッジにも対応できるようにしておくのが良いでしょう。つまり、自身のエクスポージャーとの類似性を追求して特定の受け渡し地点の契約に絞り込むのではなく、ベンチマーク契約を使ったヘッジを検討することになります。ヘッジとエクスポージャーの差を縮めるには、固定価格スワップよりも流動性の高いベーシススワップを取引する方法が使えます。

コモディティーヘッジによく使われるデリバティブの仕組みとは

コモディティー市場におけるデリバティブの仕組みは、大半が為替デリバティブや金利デリバティブの慣行を取り入れたものです。石油、ガス、電力、金属、農産物など、各コモディティー市場にはそれぞれ特有の市場力学が存在しており、市場でどのデリバティブが好まれるかについても対象となる生産者と消費者に応じて異なることがあります。

石油、ガス、精製品の典型的なヘッジ構造は、スワップ、ゼロコスト・カラー、スリーウェイ構造(消費者にとってはコール・スプレッドとプットを組み合わせたもの、生産者にとってはプット・スプレッドとコールを組み合わせたもの)です。財務デスクは通常、平均価格スワップや平均価格オプションを選好します。ある日の価格設定に関連するリスクを最小限に抑えることで、ヘッジのボラティリティーを軽減する手法です。

農産物市場、特に穀物市場では、アキュムレーターは非常に人気が高い傾向があります。アキュムレーターは、高価格・高ボラティリティの市場において、生産者にとって好ましいパフォーマンスを発揮することがよく見られます。

電子取引の活用について

コモディティーデリバティブの流動性は為替に比べるとまだ1桁低く、OTCデリバティブの電子取引の導入で遅れをとっています。ヘッジ取引は、主に企業とそのマーケットメーキング銀行との間の融資関係に基づいて配分されます。しかし、流動性へのアクセスを向上し、執行コストを下げようと試みる財務デスクは、より広い網をかけることを検討する必要があります。例えば、電子取引を通じて、複数のディーラーにクオート・リクエストを送り、オプションを多様化するなどが挙げられます。

デリバティブ構造の評価とリスク管理について

ここでまず考慮すべきは、値洗い、ヘッジ会計、信用評価の調整など、コモディティーデリバティブの会計基準を満たすために必要なすべての分析に対応できるリスクシステムを持つことです。

多くのヘッジデスクは、ヘッジを満期まで保有するつもりでいるために、日々のリスク管理にはあまり力を入れません。しかし、特にオプション構造を取引するデスクは、ボラティリティーが高い時期には、期間構造デルタのようなたとえ単純な手法でもリスク指標を使用することでヘッジ対象全体にわたる日々の値洗い推移に効果的に対応できるようになります。トレーディング業務が拡大するにつれ、全期間構造とオプション性を把握する優れたバリュー・アット・リスク(VaR)モデルを使用することで、リスク管理を次のレベルに進め、テールリスクのシナリオに備えることが可能になります。

最後に

ヘッジプログラムを実施する際に考慮すべき最も重要な点は、体系的であることです。ヘッジは利益が出る年もあれば損失が出る年もあるかもしれませんが、結局のところ保険です。ヘッジプログラムが値動きに左右されるのは、高値で買って安値で売るという「わな」に陥りやすいからです。最も望ましいのは、価格変動に関係なく、毎年、消費量または生産量の少なくとも目標額をヘッジすることです。要は一貫性が鍵なのです。

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