米国地方銀行、2024年の見通し

Read the English version published on December 01, 2023

本稿はブルームバーグ・インテリジェンスのシニアアナリストHerman Chan、アソシエートアナリストSergio Ferreiraが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

銀行の破綻と積極的な利上げに続き、米国の地方銀行は資金調達コストの上昇、資金需要の鈍化、規制強化、信用の質の低下というさまざまな逆風に直面しています。金利上昇サイクルの終了間近であることから、純利息マージンが今後数四半期で底を打つ可能性がある一方、2024年に利下げが行われれば、銀行預金の確保にかかる圧力は緩和されるでしょう。

米地方銀行株のバリュエーションは不確実性と収益見通しの弱さを反映していますが、インフレが引き続き解消に向かい、長期利回りが低下すれば、センチメントは改善するかもしれません。キーコープ、コメリカ、ウェスタン・アライアンスなど、より困難な金利と預金の課題を乗り越えてきた米国の銀行は、このシナリオから恩恵を受ける可能性があります。

米地銀株はインフレ緩和の兆しを受け上昇

米地方銀行に対する弱気な市場心理は、ファンダメンタルズが軟調であることや、資金調達コストの上昇および貸出減少で収益が抑制されていることを受け、厳しい状態が続いています。しかし、インフレが緩和し、利下げの可能性が迫っていることから、ムードは変わりつつあるかもしれません。キーコープ、ザイオンズ・バンコープ、ウェスタン・アライアンスなど、先の銀行セクター混乱の影響を受けた銀行は、10月の安値からさらに反発して上昇しました。

銀行株の回復か、またしてもヘッドフェイクか

預金総額は安定しているものの、地方銀行株に対するセンチメントは、収益性、規制圧力、迫り来る信用損失に対する懸念を背景に、依然として弱気なままです。しかし、連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き締めサイクルが終了する可能性があれば、将来の利下げによって銀行の資金調達コストが軽減されるので、投資家の見方が好転することも考えられます。インフレ緩和に伴い、市場は来年の利下げの可能性を織り込んでいるため、銀行株は10月下旬の安値から15%上昇しています。

それでも、KBW銀行株指数は年初来で18%下落と、S&P500種株価指数の17%上昇とは対照的です。2022年に株価が低迷したことを受け、銀行株指数は20233月までは市場全体に対して堅調に推移していました。しかし、シリコンバレー銀行(SVB)の破綻が現在の高ボラティリティを招きました。

銀行破綻で地銀セクターの株価はいまだ低迷

2023年初旬の銀行破綻後、米地銀セクターは落ち着きを取り戻したものの、株価はまだ完全には回復していません。各銀行は資金調達を強化し、純利息マージンは安定しつつありますが、特にオフィスへのエクスポージャーを持つ銀行にとっては、信用低下という課題が迫ってきています。BIの米国地方銀行同業グループの株価は、1114日までで前年比27%減となっています。ファースト・シチズンズとニューヨーク・コミュニティは、ともに米連邦預金保険公社(FDIC)の救済を受けて簿価を引き上げ収益力を向上させたことで、プラスのリターンを維持しています。バンクOZKおよびイースト・ウエストは、その規模から規制当局からの圧力が弱く、株価は堅調に推移し、同業他社に比べ好調です。

破綻したSVB、シグネチャー、ファースト・リパブリックを除くと、ファースト・ホライズンはカナダのトロント・ドミニオンとの合併が取り消しになった後にバリュエーションが同業他社の水準に戻ったため、株価は出遅れています。

さまざまな逆風に苦戦するバリュエーション

株式相場は10月の安値から回復したものの、地方銀行の株価倍率は過去最低値に近い水準で推移しています。 地方銀行グループの株価有形純資産倍率の中央値は1.1倍で、このバリュエーションは金利の動向、資金調達コストの上昇、規制強化、バランスシートの伸び悩み、信用の質の悪化など、多くの懸念を反映しています。USバンコープ、PNCM&Tバンクのような銀行株が安全資産と見なされていた金融危機とは異なり、地方銀行の株価収益率はプレミアムが縮小していることから、かなり狭い帯域で取引されています。例えば、M&Tの株価有形純資産倍率は現在1.3倍で取引されていますが、2009年第1四半期に金融危機の緊張が最も高まった際は1.7倍でした。今回、SVBのような銀行を巡る問題や商業用不動産に関する懸念は、地方銀行に大きく影響しています。

地方銀行の予想株価収益率(PER)は8倍で、S&P500種株価指数の18.6倍と比べると大幅な割安となっています。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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