金融業界のクラウドコンピューティングへの移行:戦略を見失わないコスト管理

Read the English version published on November 6, 2021.

クラウドコンピューティングとSaaS(software as a Service)は業界にもう定着し始めていますが、それももっともであるといえます。金融サービス企業はますますクラウドコンピューティングを使って革新的な実験場を立ち上げ、優秀な人材を集めて既存の社員が実験できるようにしているのです。何千社ものフィンテック企業が決済や資本市場ソリューション、リスク管理、ポートフォリオ運用などにSssSを提供しています。

しかしこうしたツールの利点も、導入と維持のコストにすぐ飲み込まれてしまうのが現実です。そこで、止めどないコスト増を回避しつつクラウドコンピューティングの革新的な利点を活用するためのヒントをここに紹介します。

戦略を見失わないこと

クラウドコンピューティングの波に乗り遅れまいとするあまり、中には厳格なコスト管理を確立せずにプロジェクトを開始してしまう金融企業があります。確かにクラウド技術は迅速に新たな機能を導入したり、急速に規模を拡大したりできますが、すべてコストが伴います。新しいことを試そうとして、デベロッパーが監督指導を受けずにコストを増やしてしまうことは少なくありません。

予算を守るためには、すべてのプロジェクト同様にクラウドプロジェクトも対象範囲を定義する必要があります。この活動領域へ大きく方向転換する前に、企業は目標を設定し、何を実現したいのかを明らかにして、最後まで順調に進められるよう、計画を策定するべきです。ときには目標がコスト節約ではない場合もあるでしょう。例えば、ブルームバーグがクラウドでデータを提供し始めたのは、データへのアクセスに対するお客さまの利便性を高めたいという思いからでした。

一方で、すでにクラウドコンピューティングを開始しており、コスト問題をなんとかしたいと考えている企業であれば、まずはイニシアチブが事業戦略に沿ったものかどうかを確認する必要があります。誰が何のためにクラウドを使っているのか確認するところから始めるとよいでしょう。

状況を把握したら、合理的で関連性のあるモニターツールとコミュニケーションのガイドラインを設定します。また、従業員が達成しようとしていることにかかるコストを理解してもらうようにします。デベロッパーやテクノロジストにはクラウドで新しいことを構築し、テストするよう奨励する一方で、費用対効果を考慮できるよう、彼らには予算や事業戦略に関する明確なコミュニケーションも耳に入れておいてもらう必要があります。

1000万ドルかけて100万ドルの価値しかないものを作ることは合理的とはいえません。

最新トレンドを追いかける

クラウドサービスのプロバイダーは急成長しており、新たな商品やサービスを立て続けに追加しています。

利点と問題点について考えたとき、幅広いアクセス、選択肢、機会といった点は確かに魅力的ですが、開発ペースの速度を考えると、今日新たな商品やサービスを提供しても、6カ月先にはコストのかかるアップグレードが必要になったり、見当はずれのものになってしまうのではないかと、多くの大手金融サービス提供社が懸念するのもうなずけます。クラウドプロバイダーとの関係は長期的なものであると同時に業務にとって必要不可欠なため、投資の意思決定へのプレッシャーが高まります。

こうした懸念に対応するのは容易ではありません。クラウドソリューションを検討する際には、クラウドは数あるテクノロジーの1つにすぎないことを念頭に置くべきです。企業はクラウドに移行することでコストを削減できるし、そうすべきだというのは誤解です。

可能性はありますが、そうはならないかもしれません。

クラウドコンピューティングは中小企業が急速に事業拡大するには費用対効果の高い方法かもしれませんが、従来型の事業拡張にかかるのと同程度の経常費用がかかる可能性もあるのです。

維持コストを念頭に

クラウドコンピューティングには、新しいデータ分析ツールや翻訳を簡単に導入できるような、魅力的なサービスがたくさんあります。しかしそれには経常費用がつきものです。

ウェブサイトに翻訳などのクラウド対応機能を追加するのはクラウドを使えば簡単ですが、その機能を維持するためのコストは、サイトが拡張されれば高くなっていきます。クラウドプロバイダーを活用しようと考えるのであれば、クラウドプロバイダーを長期的なパートナーだと考える必要があります。企業は、市場投入までのスピードを上げることと、それに伴うコストを比較検討しなければなりません。

業務をクラウドへ移行することで、多くのメリットが得られます。コストを管理するためには、スマートに考え出され、よく練り上げられた事業戦略を策定して軌道から外れないことが重要です。クラウドコンピューティングへの移行においてコスト管理ができる企業は、この新たなテクノロジーを最大限に活用できることでしょう。

本稿は英文で発行された記事(初出2019年11月)を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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