社会問題解決を目指す投資

金銭的リターン以上のものがあるー社会的インパクト投資が指数関数的な成長を遂げている理由は明快です。しかしそこには当然課題もあります。

その昔、億万長者だけがその富で「世の中を変える」ことができた時代がありました。しかし今日では、様々なタイプの投資家が資本を賢く配分することで達成可能になる長期的な恩恵に関心を抱いているようです。持続可能で社会的責任を伴う投資(SRI)、つまり環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を投資判断に組み込んだ投資が世界規模で著しく拡大しています。世界のESG投資額を集計している国際団体のGSIA (Global Sustainable Investment Alliance) は投資基準をネガティブ、ポジティブ、規範に基づくスクリーニング、サステナビリティ・テーマ投資型、インパクト投資型、コミュニティファイナンス型、エンゲージメント型と定義していますが、この基準に該当する投資は2017年3月までの2年間で約25%増加し、23兆ドルに達しました。

オーストラリアSRI市場も例外ではありません。Responsible Investment Association Australasia(オーストラシア責任投資協会 以下、RISS)の責任投資基準報告書(2017年)によれば、2016年末での責任投資は6,220億豪ドルに達し、運用資産(AUM)総額の推定44%を占めています。

他のアジア太平洋地域では、日本のSRI投資が急速に拡大しており、2014年、70億ドルだった運用資産は、2016年には4,376億ドルまで成長しています。背景には機関投資家向けのスチュワードシップとガバナンスコードの制定があるとされています。

社会的インパクト投資

SRIのなかでも、特に重要なサブグループのひとつが社会的インパクト投資です。責任ある持続可能な金銭的リターンだけでなく、形があるポジティブで社会的または環境的影響をもたらすことを目標にしています。オーストラリアだけでも、同市場の規模は2022年までに320億豪ドルに達すると推定されています。

最近シドニーで開催されたブルームバーグ主催のバイサイドフォーラムで、リチャード・ ブランドウィナー氏がオーストラリアの社会的インパクト投資の課題と機会についてプレゼンテーションを行いました。ブランドウィナー氏は、低所得者が多い発展途上国の市場で金融サービスとヘルスケア企業に投資するオーストラリアの証券会社、リープフロッグ・インベストメント社のパートナーです。

投資家にとっての課題

オーストラリアの社会的インパクト投資市場は比較的未成熟であり、またそのこと自体が課題であるとブランドウィナー氏は言います。機関投資家にとって、クライアントに対する信任義務を果たしつつ、金融リターンとポジティブな社会的影響の両方を提供することは困難であるとしています。多くのインパクト投資は比較的小規模であり流動性が低いため、デュー・デリジェンスのコストがより高く、より期間が長くなる傾向があり、大口投資家が積極的なオプションとして選択できるような水準ではありません。投資基準と投資機会のギャップを埋めることは重要であり、ブランドウィナー氏は、ステークホルダーが「これが実現可能であると信じ、そのために協力しあう」ことが必要だと述べました。

社会的インパクト投資からリターンを得ることは、機関投資家にとっても課題となってくるでしょう。大型ファンドであれば、このタイプの投資に大量の資本を注入することも可能ですが、インパクト投資が普通とは異なる不慣れな手法であるということは実行の足を引っ張り、より労力を割かねばならなくなる可能性があります。そのためにとられる余分な時間と努力を考えると、機関投資家としてはそれに見合う以上の利率のリターンを要求してくるかもしれません。

社会的で手頃な住宅供給

社会的インパクト投資におけるもう一つの課題は、投資家が資本を投入するための適切な手段を見つけることです。ブランドウィナー氏は、その規模と収益へのニーズを満たす可能性のある分野は、社会的な購入しやすい価格帯での住宅供給であると提言しています。

住宅供給はオーストラリアでは大きな問題です。同国のニューサウスウェールズ州住宅団体連合によると、新築で、社会的な購入しやすい価格帯の住宅は、同州だけでも2036年までに10万戸必要になるということです。豪州政府は、新築一戸建ての住宅購入を可能にする借入支援を目的として国家住宅金融投資公社(NHFIC)を設立しました。NHFICは、手頃な価格の住宅債券の集約者として民間および機関投資家から安価で長期的な資金を借り入れ、コミュニティ住宅供給業者(CHP)に提供することになっています。増加する需要を満たす手頃な価格の住宅供給のために10億豪ドルの資金調達を目指しています。

NHFIC社債は、政府保証債で担保されているため、大型機関投資家にとっても魅力的なAAA信用格付を付与されることになり、退職年金基金など大手が必要とする投資規模、質、収益を提供できるでしょう。

潜在的リターン

市場平均を上回る超過リターン「アルファ」を生み出すことは機関投資家にとって基本的なことですが、社会的影響を目的とした投資を行う際には、このアルファを構成する要素を再評価する必要性がでてくるでしょう。財務的なリターンのみに焦点を当てるのではなく、ひとつの目的を醸成し、さらにはポジティブな動因となって社会に変化を促すという面での恩恵も考慮する必要があります。

これはインパクト投資による潜在的金融リターンを無視するということではありません。そのようなケースは、むしろ例外的でしょう。最近のRIAAによる調査では、SRIへの投資は、3年、5年、10年の期間においてオーストラリアの大型ファンドよりも優れた成績をあげています。このように、社会的インパクト投資からのリターンに関するデータ自体はまだ黎明期にありますが、堅調なリターンを出せる可能性は潜在的にあります。より多くの投資家がSRI、特にインパクト投資に参入すれば、この分野の成長の可能性はさらに拡大し、社会にとっての正の外部性(外部経済)に発展していくことになるでしょう。