「もうやってられない」、女性企業幹部が大挙して退職-疲労や失望で

Read the English version published on March 6, 2023.

新型コロナウイルスのパンデミックが米国を襲った時、一つのデータが雇用主とエコノミストたちを不安にした。女性が大挙して退職しているのだ。2020年末までには、労働力人口に占める女性の割合は1987年以来の低水準となっていた。

2年後の今、女性の労働参加率はパンデミック前の水準へと着実に戻りつつある。問題は解決したのだろうか。必ずしもそうではない。

もう一つの問題が、水面下でくすぶっている。多くの上級職の女性が疲労困憊(こんぱい)し、仕事上の野心と私生活の間で引き裂かれている。彼女たちの不満が今、噴出しつつある。より負担の軽い役職や業界へと移る女性もいるが、高い給料を捨てて仕事を辞めてしまう女性もある。企業幹部の多様化という数十年にわたる国家的取り組みにとっては問題だ。最近の幾つかの研究は、政府のデータが完全には捉えていない不安なトレンドを示した。

ガールズ・フー・コード」など女性の社会進出を支援するグループを創設しているレシュマ・サウジャニ氏によれば、働く女性はもはや、彼女たちの母親としての役割を助けてくれない会社で我慢して働く気はない。リーダーの地位にある女性たちの集団離脱は「米企業の目を覚まさせるだろう」という。

マッキンゼーが22年に、女性支援団体「リーンイン・ドット・オーグ」の依頼で実施した調査は、データ収集を開始した2017年以来の高い割合で女性幹部が会社を辞めていることを明らかにした。リーンインを設立したシェリル・サンドバーグ氏は同年にメタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)の最高執行責任者(COO)を辞任した。

「幹部職に占める女性の割合はまだ十分でないのに、これは極めて大きな問題だ」と、リーンインのレーチェル・トマス最高経営責任者(CEO)は話した。そうした状況であるのに「企業は今、数少ない貴重な女性リーダーを失いつつある」と指摘した。

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女性企業幹部のプライベートなネットワークである「チーフ」とIBMインスティチュート・フォー・ビジネス・バリューによる3月1日の調査は、同じくらい困った問題を浮き彫りにした。次代のリーダーとなるべき予備軍であるバイスプレジデント、シニアバイスプレジデントの地位でも女性の割合がパンデミック前に比べて減少していた。

サンドバーグ氏のほか、米グーグル傘下の動画投稿サイト、ユーチューブのCEOだったスーザン・ウォジスキ氏も地位を退いた。ビクトリアズ・シークレットと系列会社ピンクのブランドCEOを務めるエイミー・ホーク氏も在任1年未満で退任する予定だ。

政界では女性指導者として世界で最も強い指導力を発揮してきたうちの2人、ニュージーランドのアーダン前首相とスコットランド行政府のスタージョン首相が辞任または辞意を表明。いずれも極度の疲労を理由に挙げていた。

問題があまりにも深刻になってきたため、アマゾン・ドット・コムやゴールドマン・サックス・グループなどの企業は「リターンシップ」という、女性を含めいったん退社した人々のために職場の魅力を高めるプログラムを開始や拡大し、こうした人々を中級または上級の役割で再度迎え入れるなどを行っている。

「リターンシップ」プログラムでアマゾンに復帰したソフトウエアエンジニアのシャンクリ氏
「リターンシップ」プログラムでアマゾンに復帰したソフトウエアエンジニアのシャンクリ氏
Photographer: Jovelle Tamayo for Bloomberg Businessweek

労働市場の専門家は、パンデミック期にX世代(1965-80年生まれ)の女性が担った追加的な負担が、遅れて影響を表しつつあると分析する。米労働省のデータによれば、パンデミック期にはこの世代の女性が退社する割合は意外にも相対的に低かった。

パンデミックが始まった時、ジェニー・ブルメンタール氏はコンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)で250人のチームを率いるパートナーだった。大打撃を受けた接客・娯楽業界の企業が転換の道を模索するのを手伝っていた。仕事は厳しかったがやりがいもあり、出張やホテル滞在のため子供たちと離れる必要がなくなったという利点もあった。

しかし、新型コロナ危機の初期の衝撃が過ぎると、ブルメンタール氏(45)の仕事は営業が中心になり、仕事から切り離されたように感じたという。家にいる時間は、キャリアについてじっくり考える機会にもなった。同氏は20年10月に退社し、女性企業幹部の研修を行う会社を設立した。自身と同様の問題に直面している幹部300人にインタビューしてまとめた著書「Corporate Rehab」も出版。それぞれのストーリーを紹介するとともに、キャリア見直しの指針を提供した。

「ひどい燃え尽き症候群に陥るところまで追いつめられていた」とブルメンタール氏は振り返る。「燃え尽きの理由は実は二つだった。長時間労働に使う時間と体力的な負担と、目標との断絶だ。これにパンデミック期の半ばになってやっと気付いた」という。

ジェニー・ブルメンタール氏Photographer: Amanda Andrade-Rhoades for Bloomberg Businessweek
ジェニー・ブルメンタール氏
Photographer: Amanda Andrade-Rhoades for Bloomberg Businessweek

企業のトップ経営陣に女性を増やすという取り組みは官民が数十年にわたって続けてきたが、多くの女性の退社は次世代の幹部候補の枯渇につながる恐れがある。取り組みは最近、CEOレベルでは実を結びつつあった。ブルームバーグがまとめたデータによれば、S&P500種株価指数構成企業の女性CEOの割合は過去1年に32%増えた。もっとも、これは女性CEOが1年前の31人から41人に増えたに過ぎない。

政府のデータは民間と異なり、さまざまな上級職にある女性の地位を追跡調査していないが、米国の統計は進歩の停滞を示し始めている。労働省のデータによると、22年の女性CEOの割合は29.2%にとどまり、20年の29.3%から増えていない。管理職全体での女性の割合は40.5%と、21年の40.9%から若干低下した。

Share of women CEOs in the U.S.

こうした数字は悪化の一途をたどりそうだ。リーンインの昨年10月のリポートによると、上級管理職レベルに昇格する女性1人に対して、2人が退社している。米国とカナダの333の団体、4万人の個人を対象に調査してまとめられた同リポートは、17年以降の5年間に最高責任者の役職で女性の割合は26%へと6ポイントしか増えなかったことを示した。また、このうち非白人女性の比率は20人に1人でしかない。

女性たちはストレスと疲労が退職の一番の理由だと話す。調査によると、上級管理職レベル以上の女性勤労者の半分以上が、家事と子育ての大部分または全てを担っている。これに対し同レベルの男性では13%だ。さらに女性たちは職場で、従業員の健康や安心を支え多様性と包括性を育む活動に男性の同僚よりも時間と精力を割いている。これは従業員のつなぎ留めと満足感の向上をもたらしているが、人事評価でこの功績は考慮されないことが多い。

女性リーダーの43%が燃え尽きを訴えるのも無理はない。男性でこの割合は31%だ。仕事に復帰したいが、より柔軟な環境を必要としている母親を支援する「マム・プロジェクト」の創設者でCEOのアリソン・ロビンソン氏は、女性管理職という「グループ全体が疲労している」と言う。

長年にわたって女性が受け取るアドバイスは、良き指導者を探すなど、自分たちが行動を起こすことについてが中心だった。しかし今、女性が職場でも家庭でも輝き続けられるよう企業による構造的な変化が必要だという認識が広がりつつある。

女性の経済的自立を支援する非営利団体「マムズ・ファースト」の創立者兼CEOでもあるサウジャニ氏は「私たちに必要だったのは、自分たちのスケジュールを管理する力だ。男女で差のない有給休暇、子育て支援、男性と平等な賃金が必要だった」とし、「私たちの焦点は間違っていた」と話した。

人出不足に悩む企業は、リターンシッププログラムで実験をしている。復職を考える可能性のある女性にその予備段階として一時的なポジションを用意する企業もある。

そのようなプログラムの開始を手伝う「パス・フォワード」のエグゼクティブディレクター、タミ・フォーマン氏は、16年以降にアマゾンやディズニー、オールステートを含む数十社に協力したという。同氏によると、こうした企業のリターンシッププログラムに参加した人の平均で80%が正社員に復帰した。

アラシ・シャンクリ氏はアマゾンのリターンシッププログラムのおかげでソフトウエアエンジニアとしてのキャリアを再開することができた。2年の間家族の世話に集中し、3年間コミュニティーカレッジでプログラミングを教えた後、21年に復帰した。シャンクリ氏(46)がテクノロジー業界でのソフトウエア関連の職に戻りたいと考えた時、企業は同氏の教師としての経験を評価せず、職探しへの反応は芳しくなかった。しかしアマゾンでの16週間のプログラムは、同氏が17年間に培った専門知識を生かす機会を与えてくれた。

アマゾンは同氏を正社員で採用し、今ではチームの管理や大規模プロジェクトの統括などより幅広い仕事を任せている。「中断したからといって一歩下がったところから始める必要はない。やめたのと同じ地点から継続することはできる」と同氏は話した。

本稿はJonnelle Marteが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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