ワクチン開発されてもパンデミックは各国最大の社会課題

Read the English article published on November 30, 2020.

本稿はブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストSimone Andrewsが執筆し、ブルームバーグ・ターミナルに最初に掲載されました。

ワクチンが開発されたとしても、新型コロナの危機は2021年に入っても世界的にESG分野での最大の課題になるとみられます。なぜなら、パンデミック(世界的大流行)による失業者の増加で、所得格差や男女格差などの社会的課題が一段と深刻化しているからです。景気刺激策のための財政支出は記録的水準にまで膨れ上がり、国債発行残高が増加、政府の債務返済能力が圧迫されています。

公衆衛生と所得格差が主な社会問題

先進国と新興国のいずれにおいても、パンデミックによる雇用喪失は、公衆衛生の問題のみならず、所得や人種、男女の格差問題も問題も悪化させます。ウイルス拡散を防ぐためのソーシャル・ディスタンス(対人距離)の確保やロックダウン(都市封鎖)は、失業率の増加を招きましたが、所得格差の拡大につながる可能性もあります。南アフリカは、所得分配の不平等さを測るジニ係数が他の途上国と比べいまだに最高水準にあります。雇用喪失は女性に偏って発生し、女性の出世に影響を及ぼしました。

南アフリカ、ブラジル、メキシコなどの新興国では所得格差が大きく、失業率が高い一方で、日本、ドイツ、イタリア、フランスなどの先進国では人口の高齢化が経済成長を圧迫する可能性があります。日本では65歳以上が人口の約3分の1を占めています。

Sovereign-Key-Social-Metrics

2021年を通してパンデミックへの対応が最優先

長期化する政府によるロックダウンは、特にフランス、イタリア、ペルー、フィリピンで厳格に実施されており、消費や小売り販売を減速させ、失業率を上昇させています。国際通貨基金(IMF)は、「各国のロックダウン政策の厳しさ」と1月の世界経済見通しで報告された「実質GDP成長率予測との誤差」の間に、負の相関関係があることを見いだしました。つまり、ワクチンが利用可能になるまで、より厳格で長期的なロックダウンが実施されれば、2021年に入ってもしばらくは、GDP産出額や経済成長が抑制される可能性が示唆されています。

オックスフォード大学が公表する「Oxford Stringency」インデックスは、パンデミックに対する各国政府の政策上の対策の件数と厳格度を測る指標です。ただし、対策の有効性については評価していません。

ワクチンが開発されたとしても、新型コロナの危機は2021年に入っても世界的にESG分野での最大の課題になるとみられます。なぜなら、パンデミック(世界的大流行)による失業者の増加で、所得格差や男女格差などの社会的課題が一段と深刻化しているからです。景気刺激策のための財政支出は記録的水準にまで膨れ上がり、国債発行残高が増加、政府の債務返済能力が圧迫されています。

Lockdown-and-Economic-activity-analysis

パンデミック対策で各国の負債は増加

新型コロナ対策としての未曽有の財政出動と景気刺激策を実施した結果、歳入の落ち込みとも相まって、多くの政府では債務が増大しており、2021年には債務返済能力も減退する可能性もあります。特に顕著なのは、日本、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、シンガポール、ベルギーで、公的債務の対GDP比が100%を上回っています。借り入れコストや金利の低下により、短期的には対GDPでの債務返済負担は軽減される一方で、倒産して救済措置が必要となる企業の増加により政府にさらなる負担がかかる可能性があります。

ワクチンが登場すれば人々の懸念は緩和されるかもしれませんが、2021年半ばまでに広く出回る可能性は低いとみられることから、少なくとも2021年下半期まで、経済活動はパンデミック以前の水準には戻らない可能性があります。

Debt-analysis

パンデミックによる経済格差の悪化とGDPの減少

新型コロナの影響で先進国と新興国の双方で所得格差が拡大したことで、一部の国では財政力や組織力が弱まる可能性がある、とブルームバーグ・インテリジェンス(BI)ではみています。1990年から2016年までの間に経済格差は世界人口の60%以上に当たる人々の問題にまで拡大しました。IMFは、所得格差が増大し、特に上位20%の富裕層の保有資産比率が上昇するのに伴い、国のGDPが減少する可能性を指摘しています。新型コロナの影響で多くの労働者が職を失う中、各国政府が新たに実施する社会的または経済的な対策が、根底にある格差の状況に影響を及ぼしていくことになるでしょう。

米国はジニ係数が比較的高い一方、信用格付けも高くなっています。メキシコとブラジルは、所得格差は大きいものの改善傾向にあります。

Income-inequality-analysis

新型コロナの影響で男女格差が悪化する可能性

これまでパンデミック関連での雇用喪失は、女性に偏って発生している傾向が見られ、過去30年間で実現した女性の賃金増加や雇用市場での女性の進出を帳消しにする可能性があります。米国、カナダ、オーストリア、韓国、日本で、女性の失業率は男性よりも高くなっています。米国では、2019年の4月から2020年の4月の間に、女性の雇用が16%以上低下したのに対し、男性は13.4%の低下にとどまりました。IMFはこの理由として、女性は小売りや宿泊施設、旅行など、対面での対応が必要でテレワークが不可能な社会事業分野に従事している人が多い、という点を指摘しています。

スタンダード・アンド・プアーズは調査で、米国では女性の参入率と維持率が高まると労働参加率と生産性が向上し、GDPの5ー10%増につながる可能性があり、労働人口の高齢化という課題を打ち消すことができる、と指摘しています。

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