Read the English version published on May 19, 2023.
本シリーズでは、米国市場におけるサステナブル投資とESG投資を巡る現在の市場センチメントや市況について、ブルームバーグのサステナブル・インデックス・チームが検証し、2023年の投資機会を探ります。本シリーズの過去の記事、パート1(概要編)「『ESG』を使わずにESGを活用」、パート2「低炭素経済におけるビジネスチャンス」もぜひご確認ください。
パート3(実務編)では、世界の新たな各種規制に準拠して「ロングポジションを取る」ことで生み出される、サステナブル投資の機会について詳しく検証します。
最も確実?
ブルームバーグのサステナブル・インデックス・チームは今年初め、米国市場において気候変動問題に焦点を当てた戦略で大きな成功を収めている、弊社のサービスをご利用の資産運用会社さまにお話を伺いました。
米国では気候変動戦略やESG戦略が厳しい状況に直面していることを踏まえると、この成功は並大抵のことではありません。実際、欧州では気候変動問題への対応について共通した見解が普及している一方で、米国ではこのテーマは依然として議論の対象となっており、気候変動関連ファンドへの資金流入は比較的低水準で推移しています。
この資産運用会社さまは本シリーズのパート2に記載した内容の一部、特にエネルギー移行を対象とした何兆ドルもの世界的な投資によって生み出されるビジネスチャンスについて、同じ考えをお持ちでした。また、新たな規制の可決、特に2022年に米国で成立した「インフレ抑制法」によって、温室効果ガス排出量削減のためのビジネスモデルへ移行しつつある企業にとって追い風が吹いていることも注目されていました。
米アトランティック誌には以下のような掲載がありました。「インフレ抑制法の制度とインセンティブはマクロ環境に関係なく継続されるため、クリーンエネルギー投資は向こう数年間で最も確実な経済トレンドの一つになります。クリーンエネルギーは今や保守的な投資家にとって、安全で賢明な、政府の支援を受けた投資先となっています」
資産運用会社さまはこの投資ポジショニングを「規制をロングする」と呼んでいました。つまり、政策によって推進される成長テーマという意味です。
米国、気候変動対策のけん引役に台頭
米国はかつて、パリ協定を2020年に離脱したものの結局は1年後に復帰し、決意の曖昧さが見られました。それが今では、インフレ抑制法の成立を受け、気候変動対策と低炭素化の分野においてけん引役になるという意思を明確に示しています。
ブルームバーグNEFによると、同法は米国政府の脱炭素化に向けたこれまでの取り組みで最大規模となります。クリーンエネルギーの発電と貯蔵のほか、輸送、建設、産業各部門にわたる温室効果ガス削減に向けた支出とインセンティブは約4000億ドルに上ります。
スイスの銀行クレディ・スイスによれば、このような政府支援による税額控除や助成金、融資、補助金によって、民間セクターによるクリーンエネルギー分野への大規模投資が促進されることが期待されており、最大で総額1兆7000億ドルに上る可能性があります。
そして、これまでのところ成果も出ています。2022年8月に米国政府がインフレ抑制法でクリーンエネルギー関連の優遇措置を制定してからわずか8カ月間で、クリーンエネルギーの大規模プロジェクトに1500億ドル以上が投資されました。アメリカン・クリーン・パワー協会(ACP)の最近の報告書によると、この投資額は2017年から2021年までの米国の対クリーンエネルギー投資総額を上回っています。
このような情勢へのエクスポージャーを持つインデックスには、ブルームバーグ・ゴールドマン・サックス・グローバル・クリーンエネルギー・インデックス、ブルームバーグ・バイオエネルギー・インデックス、ブルームバーグ水素インデックスなどがあります。これらのインデックス構成企業のアップストリームには、リチウムやコバルトなど、輸送や産業の電化に不可欠なコモディティーがあります。これらのコモディティー銘柄は、ブルームバーグ電化用金属インデックスに組み込まれています。
さらに、米環境保護局(EPA)が最近提案した排出ガス規制では、自動車メーカーが2032年までに米国で販売する新車モデルの67%を電気自動車にすることが義務付けられています。カリフォルニア州はすでに、2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を打ち出しています。ブルームバーグNEFの電気自動車見通しによると、2025年までに世界の自動車販売の30%が電気自動車になり、2030年までに電気自動車は9兆ドルの市場機会になると予測しています。急成長しつつあるこの市場を追跡する指標として、ブルームバーグ電気自動車インデックスがあります。
慎重に行動
本シリーズでは、規制によって生まれつつある投資機会に焦点を当ててきました。具体的には、世界のエネルギー供給を再生可能で持続可能かつクリーンなものへ転換することを加速させるための規制です。
化石燃料は短期的にはエネルギー供給において引き続き重要な役割を果たすでしょう。ただし、世界が排出量ネットゼロに取り組む中、市場(または将来の規制)で化石燃料の競争力が低下する前に、低炭素ビジネスモデルへの移行に対してタイミングよく投資をすることが、競争力を維持する上で重要な検証事項となります。
従って、幅広い市場を対象とする投資家にとっては、排出量の多い企業、特に明確な移行計画を定めていない業への投資配分を減らす一方で、エネルギー移行で最前線に立つ企業への投資配分を増やす手法を検討することが賢明です。ブルームバーグでは、まさにこのような投資手法を実現できる、さまざまな低炭素関連やクライメート・トランジション(気候変動に対応した移行)関連のインデックスを提供しています。
さらに、クリーンエネルギーや低排出への対応を掲げる企業がすべて同じような取り組みをしているわけではありません。米国では近年、ESGスコアが政治的な標的となっていますが、ESGスコアでは、これらのさまざまな企業が同業他社に比べて低迷することにつながりかねない、企業が直面する移行リスク、規制リスク、風評リスクなどを把握できます。そのため、ブルームバーグでは、こうしたリスク要因を反映させた、クリーンエネルギーインデックス、水素インデックスなどのインデックスも提供しています。
規制とそれに伴う資本フローのシフトにより、エネルギー移行は避けらません。その一方で投資家の皆さまは将来のリスクと投資機会についてさまざまな見解を持つようになるでしょう。そういったそれぞれの見解について、市場や戦略を測定するためにテーマ別インデックスや総合インデックスで追跡したり、投資商品へ転換したりすることが可能です。
本稿はブルームバーグのサステナブル・インデックス部門統括者、Chris Hackelが執筆しました。