LIBOR移行に関するQ&A

Read the English version published on October 08, 2019

専門家のパネルが、リスクフリーレート(RFR)とそれが市場で取引されるすべての商品に適しているのかどうかについて議論を行い、RFRが適している分野と適していない分野を整理しました。ブルームバーグでOTCデリバティブのグローバル・デリバティブ・プロダクトマネジャーを務めるHarry Lipmanが、LIBORからRFRへの移行過程で市場参加者が直面する課題と、フォールバックレート導入に影響を及ぼすと思われる要因についてご説明します。

Q:代替リスクフリーレート(RFR)は市場参加者のニーズにどれほど適合しているのでしょうか?

A:RFRは多くの市場参加者に適したものとなっていますが、取引の信用リスクをスワップでヘッジする場合や利息支払日よりかなり以前に正確な利息額を特定する必要がある場合には大きな問題となります。

RFRは、銀行や大手運用会社によって、店頭市場のOIS(オーバーナイトインデックススワップ)などの商品に広く使用されています。しかしRFRは翌日物レートであり、ターム物レートが存在しません。このため金利計算期間開始前にターム物レートが前決めされるLIBORとは異なり、金利計算期間終了後に実績値の複利計算によりターム物金利を後決めすることしかできず、これが実務上の大きな課題となります。小規模なバイサイド金融機関の中には、この後決めクーポンの不確実性に対応可能なインフラが整っていないところもあり、特にリテール向けキャッシュ商品を扱う場合などには問題となります。

重要な問題がもう1つあります。RFRにはLIBORに備わっていた信用リスクおよび流動性リスクの要素がないことです。これまで通りスワップを使って信用リスクおよび流動性リスクのヘッジを望む金融機関にとって、これは大きな問題となります。金融が不安定な時期には投資家がリスクフリー証券を選好することからRFRが低下する一方で、クレジットスプレッドと借入コストが上昇します。この結果、クレジット商品とそのヘッジとして使われるRFRとの間にミスマッチが生じる恐れがあります。

Q:前決め方式のターム物レートは必要ですか?その開発にはどのような課題がありますか?

A:米連邦準備理事会が設置した代替参照金利委員会(ARRC)、英金融行為規制機構(FCA)が設置した公的セクター運営グループ(OSSG)ほかの規制当局は、前決め方式のターム物金利が開発されるまでLIBOR移行を待つのではなく、後決め複利方式を採用すべきであるとしています。これは、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)がOTCデリバティブ商品のLIBORフォールバックとして選択したRFR決定方式にも反映されています。また、ARRCが行ったキャッシュ、ローンその他の商品に関する市中協議文書の中でも、これら商品のフォールバックに関して同様のガイダンスが提示されています。

ローンその他の商品へのRFR導入を円滑に行うため、多くの市場関係者が前決め方式のターム物レートを望んでいますが、そのためにはRFR算出のベースとなる短期金融市場の成長を待つ必要があります。証券監督者国際機構(IOSCO)の基準を順守する必要がある中で、米ドル担保付翌日物調達金利(SOFR)あるいはその他の通貨のRFR算出のベースとなる短期金融取引の出来高や流動性が乏しい現状では、信頼性が高く市場に受け入れられる前決め方式のターム物レートを算出するのは困難であり、市場が十分に成長するまでにはあと数年はかかると思われます。

Q:フォールバックレートの選択と導入に影響を及ぼす可能性がある要因は何ですか?

A:店頭デリバティブのLIBORフォールバック算出方法については、ISDAが市場参加者、規制当局、ブルームバーグをはじめとするベンダーと協議の上でコンセンサスをまとめました。後決め方式の複利RFRとLIBOR・RFR間のスプレッド調整を組み合わせた方式です。使用されるパラメータの微調整のため年内に再度の市中協議が予定されていますが、結果はおおむね好意的に受け止められると予想されています。さらにISDAはフォールバック調整ベンダーとしてブルームバーグを選出しました。フォールバック調整ベンダーは、市中協議を経て決定された算出方法およびパラメータを正確に使用して、LIBORフォールバックに関連する調整値を算出・公表します。

キャッシュ商品についてはリテール向けに多数の商品や証券が存在し、関連当事者の数も金利スワップのような相対商品とは異なり多数となることから、コンセンサスの形成はより一層困難になります。例えば典型的な住宅ローン証券化商品には、抵当権者、抵当権設定者、カストディアン、発行体、投資家が関係します。各銘柄はそれぞれ固有の法的文書から成り立っていることから、ポートフォリオ内の全銘柄のフォールバック条項をすべて確認することは大変な作業になります。

ブルームバーグは現在キャッシュ債券のフォールバック条項を提供して、運用会社その他の機関投資家によるフォールバック条項影響評価を支援しています。またブルームバーグは、デリバティブ商品向けのフォールバックデータの算出・提供、およびキャッシュ商品向けのフォールバック条項の提供に加えて、算出結果をブルームバーグの分析機能およびポートフォリオソリューションに統合して、LIBOR移行をグローバルに支援しています。

Q:各市場参加者にとって移行に関する実務的な課題は何ですか?また、移行戦略実行に当たって従うべき原則はありますか?

A:潜在的な問題を最小限に抑えるためには、まず既存のポートフォリオのLIBOR依存性を確認し、次に店頭デリバティブおよびキャッシュ商品にLIBORフォールバック条項が存在するかどうかを調べることが必要です。さらに、すべての通貨建の保有商品が規制当局あるいは市場主導の動きから受ける影響を把握した上で、既存ポジションが売却可能かどうかを確認するとともに、新たな取引によるLIBORエクスポージャーの増加を抑制する必要があります。

既存のポートフォリオにLIBORエクスポージャーが全くない場合でも、後決め複利方式に対応するRFR OISタイプのインフラは少なくとも整備する必要があります。適切なデータフィードや市場リスク・バリューアットリスク(VAR)モデルなどもインフラの一部として整える必要があります。さらに、既存のLIBORリンク商品からRFR OIS商品への移行準備には、ISDAのLIBORフォールバックに対応したインフラも必要となります。

店頭デリバティブのポートフォリオについては、保有デリバティブのLIBORからRFRへの移行に当たって考慮すべき注意点が幾つかあります。中央清算されない相対取引の場合には、ポートフォリオのネッティングセットについて既存のISDA契約書およびクレジットサポートアネックス(CSA)の差し替えまたは修正を、カウンターパーティーと交渉することが可能です。中央清算されたデリバティブ取引については、LIBORにリンクした既存のスワップ・レッグをRFRに移行させるために、清算機関(CCP)がマルチラテラルオークションその他の手続きを取る場合があります。また、相対取引の場合も中央清算取引の場合も、既存のLIBOR取引を終了すると同時に新たなRFR参照取引を開始したり、ベーシス取引を行ってLIBORの影響を相殺したりすることもできます。

2021年末に予定されるLIBOR廃止以前に余裕を持って移行作業を完了できるように、ポートフォリオの確認とリスクの分析を今から開始することが重要です。必要な作業としては、ISDA契約変更の影響分析、CCPにおける価格調整(price alignment)への準備、RFR移行がデリバティブのリスクおよびバリュエーションに及ぼす影響のwhat-if分析などがあります。ブルームバーグのデリバティブ分析プラットフォームは、業界をリードする執行・注文管理プラットフォームとともに、バリュエーションおよびリスクへの影響分析ならびにLIBOR移行によるポートフォリオ変更に伴う注文の円滑な執行を支援します。