クリーンで汎用性の高い水素が脱炭素化への重要な方向性として浮上

Read the English version published on July 18, 2022.

本稿はブルームバーグ・インテリジェンスのシニアアナリスト(業種担当)Will Haresが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

国と企業が排出量実質ゼロ(ネットゼロ)を目指す中で、クリーン水素は長期的に見て脱炭素化実現のための重要な方向性の1つとなる可能性が高まっています。この方向性を促すのが政策支援の強化と投資の拡大です。さまざまなエンドマーケットの発達により、水素の汎用性の高さが明確になっています。その用途は、高温かつ二酸化炭素排出量の多い工程を省きにくい重工業(精製、化学品、肥料、セメント、鉄鋼など)や、比較的規模は小さいけれども、エネルギー貯蔵、モビリティ分野などが含まれます。後者は電池分野での競合が大きく影響しています。「ブルー水素(天然ガスから製造した水素のうち、製造過程で排出した二酸化炭素(CO2)を回収し、地下圧入などによって処理したもの)」は、グリーン水素の商業化までのつなぎとして機能すると考えられています。グリーン水素の商業化には、低コストの再生可能エネルギーと大規模な電解能力がグリーン水素製造プロセスに導入される必要がありますが、これは、2030年以降になるとみられています。

水素:注目の主要企業

水素へのエクスポージャーを持つ企業

出所:ブルームバーグ・インテリジェンス

水素関連燃料の普及に伴い、鉱工業企業らが投資を拡大

脱炭素社会の実現に向けた水素燃料関連への産業界による投資は、今後も拡大が見込まれています。現在、CO2排出量ゼロの「グリーン水素」は「ブルー水素」の2-3倍のコストがかかるため、再生可能エネルギーと電解槽の生産能力の急速な拡大が必要とされています。これには、電力セクターが中心的な役割を果たすことに加え、天然ガスと水素を混合したタービンが最も有力な手段であると考えられています。

進化を続ける水素への産業部門の関心

よりクリーンな燃料源として水素への関心が高まる中、鉱工業企業各社は投資を拡大していて、燃焼後の二酸化炭素回収を必要とする「ブルー水素」プロジェクトが進行しています。現在、CO2排出量ゼロのグリーン水素は、ブルー水素の2-3倍のコストがかかっているため、競争力を持つようになるまでにはまだ時間がかかります。これには再生可能エネルギーコストの低下と電解槽生産量の大幅な増加が極めて重要ですが、技術開発と規模拡大により実現するでしょう。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の最善のシナリオでは、1メガワット時あたり20ドルの低コストの再生可能エネルギー電力と電解槽の生産能力拡大を想定した場合、グリーン水素は2030年までに競争力を持つようになると予測されています。

グリーン水素は、鉄鋼、化学品、運輸など脱炭素化が困難なセクターのCO2排出量をネットゼロに近づけるのに貢献できます。

水素を取り巻く環境のスナップショット

出所:Emerson: Capital World Hydrogen Deep Dive Days

クリーン水素の実現にはコスト削減が必要

100%カーボンフリーのグリーン水素は、二酸化炭素排出量を引き下げるのが困難なセクターにおける脱炭素化達成の実現に大きく貢献しますが、製造コストが大きな障壁となっています。IRENAによると、現在の製造コストは1kgあたり約4-6ドルで、これは化石燃料を原料とする「グレー水素」の3-4倍です。電解槽で製造されるグリーン水素を経済的な観点から見ると、商用化は、まず最大の投入資源である再生可能エネルギーのコスト低減にかかっています。風力発電のコストはこの10年間で40%低下しており、さらに下がると予想されています。次に大きなコストとなる電解槽は、性能の向上や製造規模の拡大などによってコストを削減できると考えられていて、IRENAでは短期的には40%、長期的には80%の削減が可能であると予測しています。これが実現すれば、2030年にはグレー水素の1kg当たり1-2ドルに対して、グリーン水素は、2ドルを下回る可能性があります。

水素の製造コスト

出所:IRENA(2021)、Green hydrogen supply: A guide to policy making

電力セクターでの取り組みが中心

国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のCO2排出量の41%を占め、最大の排出源である電力セクターは、低炭素水素(H2)燃料の主要なユーザーとなる可能性があります。ガスタービンメーカーは、2030年までに100%水素を燃料とするタービンを製造することを約束しており、これは技術的にも達成可能なはずです。しかし、必要となる燃料が多いため、十分な供給を確保できるかどうかが懸念事項となっています。既存のタービンを水素用に改修することで、発電所の稼働寿命である25-30年の間、CO2排出の固定化(ロックイン)を避けることができ、大規模な設備投資も不要になります。

水素と天然ガスを混合燃料とするタービンが商業的に実証されています。そうした中、再生可能エネルギーと水の電気分解によって生成されるグリーン水素は望ましい選択肢です。しかし、2040年までに風力発電容量が3倍になると予測されているとしても、短中期的には、燃料の混合が最も可能性が高い選択肢でしょう。

ガスタービンによる低炭素化またはネットゼロへの道

出所:GE Hydrogen Overview(2022)

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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