英国のEU離脱によりEUがMiFID修正の動き

Read the English version published on February 7, 2020.

本稿はSilla Brushが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

英国の影響から解放された欧州当局は、EU離脱で混乱するシティ・オブ・ロンドンを弱体化させるべく攻勢に出ようとしています。

金融危機後の包括的な金融・資本市場規制であるMiFID II(第2次金融商品市場指令)は見直しに6年を要しました。しかし現在、EUおよびドイツ、フランスの当局者は、見直しの過程で英国に譲歩した部分を元に戻すべくMiFID IIを修正する検討を開始しました。

リサーチ費用、記録保管、株式・デリバティブ・コモディティ取引に関する部分は修正される可能性が高く、ゴールドマン・サックス・グループ、JPなどグローバルに展開する銀行にとっては英国のEU離脱に関連する交渉がより難しくなる可能性があります。また今回の修正には、先物その他の上場デリバティブ取引においてロンドン証券取引所(London Stock Exchange Group Plc)に対するドイツ証券取引所(Deutsche Boerse AG)の優位性を強化する目的もあります。

「欧州最大の金融市場が今ではEU域外にあるという事実は、金融サービス規制全般のバランスを変えることになるでしょう。そうはならないという人がいれば考えが甘すぎます」と、ドイツ選出の欧州議会議員でMarkus Ferber氏はEメールで述べました。

関係者によると、EU当局は2020に銀行などに対して最初のフィードバックを求める予定で、正式な修正案は2020年第3四半期に公表されるとみられています。

問題となるのは個別規制だけではありません。ロンドンの金融業界が日常的にビジネスを行うことを可能としているアーキテクチャー全体が危機にさらされることになるのです。EU離脱後にロンドンの金融サービス企業がEU市場にアクセスできるかどうかは同等性評価と呼ばれるプロセスにかかっています。この中で英国はEUに対して、自国の規制がEUの規制と少なくとも同等に厳格であることを証明する必要があります。この金融に関する同等性評価により、EU当局は英国の規制が公正な競争条件を確保するために十分であるかどうかを判断する権限を一方的に手にすることになります。

ロンドンにあるKatten法律事務所のパートナーでデリバティブ市場のクロスボーダー規制問題を専門とするNathaniel Lalone氏は次のように述べています。「MiFIDの見直しと同等性評価を組み合わせれば同等性の内容を意図的に操作できる可能性があり、EU側が有利になります。MiFIDの見直しが政治目的で乱用されるリスクがあり、最終的には残念なことですがシティの金融企業によるEU市場へのアクセスが妨げられる可能性があります」

英国は2020年1月31日にEUを離脱しました。EUとの間の通商協定締結期限は2020年末です。英国のボリス・ジョンソン首相とEUの最初の交渉からは、合意なき離脱とほぼ同じ状況を避けるためには多くの課題を克服する必要があることが示されました。また、このブルームバーグリポートが貿易緊張に対する懸念をあおる形でポンドが反落しました。

MiFIDの修正

ドイツとフランスは、MiFIDの主要な項目のうち英国がEU加盟国であった際に強く主張した部分の修正について、既に協議を開始しています。

Ferber氏は、ドイツ財務省やドイツ証券取引所とともにMiFIDのオープンアクセスと呼ばれる条項の見直しを求めています。この規則はロンドン証券取引所が支持したもので、2020年半ばに発効予定です。その目的はデリバティブ市場の競争性を高めることですが、ある取引所で取引されたデリバティブ契約が別の取引所で清算されることを認めることにより、欧州取引所の上場証券に対する支配力が弱まることになります。

MiFIDに関する英国のもう一つの最優先課題は、運用会社に対して取引手数料とは別にリサーチ費用を支払うことの義務化でした。英金融行為規制機構は、これにより英国で運用される株式ポートフォリオの投資家は、5年間で最大10億ポンド(13億ドル)のコスト削減が可能になると主張しました。

しかし、この規則のおかげで米金融機関のロンドン法人など体力のある大手金融機関が非常に低い価格でリサーチを販売する恐れがあるとの批判が欧州側にはあります。このためフランスでは、大手金融機関による競争を阻害するような低価格でのリサーチ販売を禁止することが規制当局により検討されています。

動く標的

確かに、MiFIDが修正されれば金融業界のメリットとなる部分もあるでしょう。コスト削減も可能でしょうし、ドイツではプライバシー保護が重視されることから顧客との通話を録音する必要もなくなるかもしれません。債券や株式取引の透明性が向上すれば運用会社にとってもメリットでしょうし、修正案のおかげで欧州のETF市場が活性化されるかもしれません。

しかし、KPMGロンドンの金融サービス担当副会長であるKay Swinburne氏は、EUが修正作業を進めてMiFIDを大きく変えるようなことになれば、円滑なクロスボーダー市場アクセスを確保するための国・地域間の規制の調整が難しくなると言います。

元欧州議会の英国選出議員でもあり、10年間にわたりブリュッセルでEUの金融立法を主導してきたSwinburne氏はあるインタビューで次のように述べています。「もし標的が動いているとしたら、どうやって狙いを定めればよいのでしょう。何を統一すればよいのかさえ分かりません」