パンデミック後の強い回復を目指すー新時代のリスク管理

Read the English version published on  June 23, 2020.

本インタビューはRisk.netにて最初に公開され、ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。

ブルームバーグでリスク・アンド・プライシング・ソリューションズのグローバルヘッドを務めるJose Ribasが、新型コロナウイルスのパンデミックおよびその後の市場のボラティリティを受けて金融機関のリスク管理がどう変化しているか、規制の役割、そしてリスク管理チームの機敏性向上のためのテクノロジーの役割について説明します。

Q

金融機関のリスク管理システムの堅牢性について、新型コロナウイルスのパンデミックおよびその後の市場のボラティリティとストレスから何が明らかになりましたか?

A

2020年3月の数日間に見られた市場のボラティリティと取引水準は、今までに例がないほど大きなものでした。マイナス金利、マイナス商品価格や価格の乱高下などによりリスク管理チームは迅速な対応を強いられ、バリュエーションやリスク評価の頻度を上げる必要に迫られました。また、信用リスク上昇の結果として追加証拠金の請求、信用評価調整、日締め時のバリュエーションが必要となり、ディスピュートの件数も増加しました。そして、これらのすべてがリスク管理システムとリスク管理チームに対する重圧となりました。この結果、迅速な対応とイントラデイのリスク管理の頻度増加が市場において不可欠なものとなりました。

企業はまた、自社のシステムが在宅勤務中の従業員の大多数をサポートできるかどうかを限られた時間の中で確認する必要に迫られました。そうした中でリスク管理者が直面した課題は、自社のエクスポージャーをいついかなるときにも把握し、決められた上限を超えていないかどうかを常に確認することでした。しかし、イントラデイのポートフォリオリスクを算出するためには膨大な計算能力を必要とします。リスク管理チームがリモートワークを継続する状態ではミスが発生するリスクが高まりますが、それでも企業は会話を録音し、正確な監査証跡を残す必要があります。このためブルームバーグのお客さまからは、この種の事業継続を支援するソリューションの迅速な提供を求める声が急速に高まりました。

これは何も金融機関に限った問題ではありません。例えばヘッジ会計を採用する事業会社や原油先物取引を行う事業会社もエクスポージャーをヘッジする必要があります。しかしボラティリティが最大となったときには、適格あるいは有効と信じていたヘッジが効果を失いました。顧客ベースやサプライチェーンにおけるデフォルトリスクも高まっており、より注意が必要になっています。

こうした中、取締役会ではリスク管理が中心的な話題となりました。迅速な対応が必要であることが理解され、チーフ・リスク・オフィサー(CRO)やリスクマネジャーの役割に注目が集まっています。社内に4つのシステムが併存している場合、効率性が低下しポジションやリスクの調整には時間がかかってしまいますが、システムが1つであれば業務フローが簡素化されフロントオフィスとリスク管理部門の連携にも整合性が生まれます。また、想定外のマーケットイベント(原油価格の低下やマイナス価格など)に対応するための新たなモデルの導入も、システムが1つであれば迅速かつ容易に行うことができます。

Q

2007年から2008年にかけて発生した世界的な金融危機を契機として制定された規制は、まだ実施過程にあります。ここでさらに規制が強化された場合、企業のリスク管理に役立つでしょうか。それとも障害となるでしょうか?

A

規制当局は、現状に鑑み柔軟な姿勢を見せています。トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)などの規制の適用日を遅らせたり、金融機関が流動性を確保するために自己資本規制の基準を緩和したりしています。だからと言って企業が規制対応作業を棚上げしたというわけではありません。ブルームバーグのお客さまの中でも規制当局の動きに合わせて導入計画を大幅に遅らせたという企業は見られません。ただ、資源をより有効に割り振るための時間の余裕が少しできたことは確かです。

規制をそのまま遵守することに重点を置く企業がある一方で、多くの企業は自社の業務プロセスやリスク管理について規制が求める基準を上回る体制を構築しようとしています。また、モデルや社内基準、分析内容などについて常に一歩先を行こうとする企業もあります。例えば、マイナスの商品価格をプライシングするモデルを持っていなかった企業は、次回に備えて規制当局のガイダンスを待たずに導入を検討するでしょう。

今後、規制当局は危機の際に企業が取った対応について調査を開始するでしょう。例えば、バリューアットリスク(VaR)の上限値を超えてしまった事例についてヒアリングを行い、その結果に応じて新たな措置を講じるかもしれません。また、規制が求めるストレステストは将来に備えることを目的としています。従って、企業が危機の際に迅速に対応できる体制を整えているかどうかを調べるために、新たなシナリオが導入されるかもしれません。

Q

新型コロナウイルスのパンデミックは、企業が規制遵守と報告のために使用するデータの管理方法をどのように変えますか?

A

データは正確な意思決定に不可欠な要素であり、特に危機的な状況においては高品質のデータが速やかに必要となります。ブルームバーグにおいても、あらゆる種類のデータにアクセスするお客さまの数が急増しました。企業が必要とするのはポジションとマーケットに関するクリーンなデータ、そしてバリュエーションとリスク管理に使用する高品質データです。また、極限的なマーケット環境においても無裁定のボラティリティとカーブを継続的に作成する正確な手法も必要としています。流動性の枯渇により高品質のデータが手に入らない場合には、何らかの代替的な手法でその空白を埋める必要があります。さらに、市場の動きと特定の金融商品の値動きの間の関係を、他の商品の値動きと比較しつつ理解する必要があります。

規制当局への報告に対応するためには、リスクに関する迅速な意思決定が必要となります。また、報告される取引データの正確性を確保することも必要です。そのためには検証プロセスが重要となり、検証を行うには優れたテクノロジーが不可欠です。報告内容に対しては責任が生じるため、データの透明性と数字の信頼性が大変重要です。

Q

CROが危機対応とリスク管理手法について事後的に検証を行う場合、何を調べればよいですか?

A

VaRの上限超過事例、さらにはイントラデイのリアルタイムエクスポージャーや将来のエクスポージャーをより正確に計測する手法などが考えられます。適切なタイミングで適切な意思決定を行うために必要なデータを入手できていたでしょうか。市場のボラティリティが今回のような水準まで大きくなった場合には、レイテンシー(データを入手するまでの待ち時間)が現実的な問題となります。

データを収集しシステムを調整するのにどれほどの時間がかかるのか、状況に素早く対応してヘッジを調整し流動性をどこから得られるかについても検証する必要があります。

また、市場の流動性が変化した際にリスクの上限をどう変更すべきかについても検討が必要です。ポートフォリオ調整をより迅速に行うべきなのでしょうか。ポジションの売買を繰り返せば取引コストが増加します。かと言って売買頻度を減らせば損失が拡大する可能性があります。

また、一部の業務をアウトソーシングすることによるリスク管理プロセスの効率性向上にも取り組む必要があります。対象業務としては独立した評価、LIBOR移行や信用モジュール関連の業務をサポートするアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)などが考えられます。そのためには、社内で構築し自社で管理するソリューションと、アウトソーシングするソリューションやサービスを選別する必要があります。業務をアウトソーシングすれば、より多くの時間を意思決定に割くことができるようになります。

前回の金融危機以降、CROの役割は重要性を増してきました。それに加えて今、チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)の重要性も高まっています。システムのスリム化が必要だとの認識を企業が強めているためで、その対象は取引前手続きから、取引執行、リスク管理、報告、コミュニケーションにまで及びます。社内に複数のシステムが併存している場合、その調整には多くの時間が必要です。企業が保有するシステムの数は、業務の規模や複雑性にもよりますがごく少数の場合もあれば何百に上る場合もあります。そうした中、CROとCTOは、自社が適切なテクノロジーに投資し適切なパートナーを選んでいるかどうかを評価する必要があります。

Q

次の金融危機の原因として最も可能性が高いものは何だと思いますか。それに備え対応する能力を企業が向上させるにはどうすればいいですか?

A

リスク管理チームが今やるべきことは、パンデミックの経済的影響(およびそれに対処するために実施された財政および金融政策)がリスクシナリオやヘッジ戦略に及ぼす影響を見極めることです。

将来について考えてみると、テクノロジーのイノベーション(ロボットによるプロセス自動化や人工知能など)は市場にとってプラスであり必要ですが、そのリスクは適切に管理されなければなりません。そのためには、システム管理に関する厳格な規則が必要ですし、誰かが決定事項を検証して誤ったシグナルの連鎖がエスカレートするのを防がなければなりません。

リスク管理に役立つ技術やインフラへの投資には疑問が呈されることもありますが、その成果は必ず表れます。これまでシステムの強靱性を高める投資を行ってきた結果として、今回、取引量やボラティリティが従来の3倍から4倍に跳ね上がっても対処することができたのです。

今回の新型コロナウイルスのパンデミックから市場が学んだ教訓の一つは、より極端なシナリオに備えて危機管理計画と必要なリソースを準備しておくことが必要不可欠であり、自社で対応するには時間や予算、リソースが不足する場合には、信頼できるサードパーティ・プロバイダーの利用も理にかなっているということです。

Q

規制当局は、主要な規制改革のタイムラインについて譲歩する一方で、企業は既存のコンプライアンス遵守責任を最優先するべきであると強調しています。リスク管理者が危機対応、通常業務、戦略計画立案のバランスを取るにはどうすればよいでしょう?

A

危機が発生すると対処すべき重要な課題が幾つも現れます。さらに、通常のルーティーンを離れて今までと違う視点から考え行動することが求められます。2007年から2008年の金融危機から明らかになったことは、すべてを自社でやろうとするのは費用対効果が低く、意思決定および計画立案に必要な時間が不足したり、遅れたりするということでした。

その結果、企業は外部購入と自社構築の是非について再検討し、サードパーティ・プロバイダーをより多く使い始めました。この傾向は今後も拡大し、既存のシステムを継続的に見直したり、あるいはその補完のためにAPIなどのより柔軟なソリューションの導入を検討したりすることになるでしょう。さらに、過去数カ月のコロナ危機により、困難な時期には信頼できるパートナーとサプライヤーの存在が大変重要であることが再認識されました。

特にクレジットおよびイントラデイのリスク管理のためのより高度なツール、および時間がかかる手作業を廃して人間の判断が必要な複雑なタスクにリスクマネジャーがより多くの時間を割けるようにするための自動化ソリューションが求められています。また、フロントオフィスとリスク管理システムの統合も、両者間の調整が不要となり時間が節約されます。

クラウドを嫌いすべてのシステムおよびサーバーをオンプレミスで保有する企業もまだ見られます。しかし、従業員がリモートワークを行っている現在の状況を鑑みると、そうした考え方は変わっていくでしょう。これらすべての側面が、戦術的および戦略的目標を企業が真剣に検討する助けとなるでしょう。

Q

新型コロナウイルスは、リスク管理チームの将来の運用体制に対してほかにどんな影響を及ぼすでしょうか?

A

すべての部門において、同僚の個人的状況やニーズ、精神面の健全性がより意識されるようになると思います。これは良いことです。また在宅勤務により同僚とのコミュニケーション改善に今以上に気を遣うようになり、コラボレーションの促進に役立つでしょう。