ESG投資の基本概要とその反発の背景:QuickTake

Read the English version published on July 11, 2022.

本稿はSaijel Kishan(協力:Natasha White)が執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

「ESG投資」という言葉はおそらく誰しも耳にしたことがあり、環境要因、社会問題、コーポレートガバナンス(企業統治)から生じる重要な財務リスクを考慮する投融資の一種として認識されているでしょう。ただし、ESG投資と、社会的責任投資、インパクト投資、その他の類似もしくは時に重複する投資との違いについては明確ではない方も多いのではないでしょうか。その一因は、ESG投資の定義が人によりさまざまになってきたことにあります。この曖昧さゆえに、近年のESG投資の急成長が加速したという側面もあります。とはいえ、ESG投資の成長とともに、規制当局の監視は強化され、大げさな主張をする銀行や投資会社の取り締まりが厳しくなっています。また、米国ではESG投資に各方面から反発が生じています。保守派はESG投資を「意識高い(woke)資本主義」と冷やかし、内部関係者はESG投資が約束したような現実的インパクトを生み出していないとしています。

ここからは、ESG投資の基本概要を紹介します。

1. ESG投資の目的

ESG投資は、サステナブル投資に属します。サステナブル投資は、ESG投資などさまざまな投資の総称です。推進派は、世界のファンド資産規模2.7兆ドル(米Morningstarによる算定)とされるサステナブル投資の目的は社会的インパクトを達成すること、個人の価値観に沿うこと、またはリスクを管理することだと述べます。当然、利益を伴うことは大前提です。

2. ESG投資の起源

「ESG」という略語は、2000年代半ばに作られました。英国の法律事務所が2005年に「国連環境計画金融イニシアチブ」のために書いた報告書では、財務分析におけるESG要素の利用は投資家の受託者責任と両立するものであるとの主張が示されました。つまり、ESGデータを投資に取り入れれば、気候変動、サプライチェーンにおける労働争議や人権問題、コーポレートガバナンスの不備とそれに起因する訴訟など、重大な財務リスクを回避することで投資を保護できるだろうという考え方です。時がたつにつれ、「ESG」という言葉はあらゆる投資に使われるようになりました。例えば、再生可能エネルギー関連銘柄の保有といった一般的なものから、ロシアなど独裁国家の石油会社や資産をベンチマーク指数に連動するファンドのような、予想外のものまで含まれます。

3. ESG投資の規模

ESG投資の資産規模予想においては、何をESG投資銘柄として数えるかによって大きく異なります。ブルームバーグ・インテリジェンスの試算では、現在35兆ドルのESG投資資産は2025年までに50兆ドルに達する見込みです。世界持続可能投資連合(GSIA)によれば、ESG投資資産は2016年の22.8兆ドル、2018年の30.7兆ドルから成長しています。

4. ESG投資の特性

ESG投資が人気を集める背景には、ESGは世界をより良い場所にするための有益な役割を果たすものという信念に依拠してる部分があります。しかし、そのような心温まる曖昧な思いがゆえに、資産運用会社はESG投資の重要な特質を明確にすることから免れているという批判もあります。すなわち、ESG投資とは主に投資パフォーマンスを低下させる可能性のあるリスクを特定したり、利益を上げる機会を発見したりするためにESGデータを活用することであるという特徴が曖昧になっているのです。対照的に、サステナブル投資の中でも次のように一層踏み込んだものもあります。

  • 倫理観・価値観重視型投資:投資家が支持する政治的、宗教的、哲学的な信念や価値観を持つ企業への投資を促進または回避する広範な戦略。初期の実践者はクエーカー教などの宗教団体で、アルコール、兵器、ギャンブルなどに対する投資を回避しました。スウェーデンの教会関連団体は、1965年に初となる倫理観重視型投資信託を設立。米国では1971年に「Pax World Fund」が開始されました。
  • 社会的責任投資:ナパーム弾製造会社の消費者ボイコットなどベトナム戦争反対運動や南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)廃止への取り組みに刺激され、1980年代から90年代にかけて投資家グループが「善い行い」の実現を目指した戦略。社会に害を及ぼす企業を避けるだけでなく、ビジネス慣行を改善している企業に投資します。また、クリーンテクノロジーに取り組む企業を重視する場合もあります。
  • インパクト投資:社会的責任投資は一般的に上場企業が中心であるのに対し、インパクト投資は民間プロジェクトが主な焦点。ニッチな戦略を採用し、投資家は測定可能な特定の成果を目指します。例えば、サステナブル農業の推進や、手頃な価格の住宅を提供する企業への投資などがあります。
  • システムレベル投資:現時点では初期段階にある発展途上の新型戦略。ESG投資が実世界で大きな影響を及ぼすことができないと批判の声が高まる中、注目を集めつつあります。ポートフォリオを全体として捉え、長期的にその各要素がそれぞれの資産とどのように相互作用するかを考慮して意思決定を行います。例えば気候変動に関して、システムレベル投資ではエネルギーや保険会社の株式からソブリン債や外国為替まで、ポートフォリオ全体にどのような影響を及ぼすかを検討します。その検討を踏まえて、システムレベル投資家は他の投資家と協力して、業界標準の策定、投資家間のデータ共有、公共政策の改訂要請など、企業のビジネス慣行を改善するよう集団で働きかけます。

5. ESG投資への批判

「ESG」という言葉があまりにも広く使われるようになり、その意味を失ってしまったと捉える意見があります。「グリーンウォッシュ」のまん延、つまり企業が自社の行動による環境上の利益を誇張していると指摘する声も多く見受けられます。「ESG」という言葉を作った人物でさえ、金融業界は「ESG投資」に値しない金融商品にもその名前を一種の魔法のように利用しており、今後数年のうちに業界再編が起こるだろうと発言しています。また、資産運用会社がESG要因のパフォーマンスに応じて各企業を順位付けする、ESG格付けに依存している点にも批判が集まっています。こうしたスコアには多くの矛盾があり、例えば企業が環境や社会に与えるリスクではなく、ESG要素が企業に与えるリスクでランク付けが行われている場合もあります。

6. 規制当局の動向

「ESG」という言葉が投資信託から複雑なデリバティブまであらゆる金融商品を販売する資産運用会社や銀行に広く使われるようになり、欧米の規制当局はESGを誇張する企業の取り締まりに乗り出しています。5月には、ドイツ当局はドイツ銀行ファンド部門のオフィスを家宅捜索し、投資家に対してESGの機能を誇張して説明したという疑惑を調査しました。その翌月には、ゴールドマン・サックスの資産運用グループが販売するESGファンドがマーケティング資料で約束したESG指標に違反していないか、米国の規制当局が調査していることが明らかになりました。

7. 規制に関する最新状況

米国証券取引委員会(SEC)は5月、ESGファンドが投資内容を正確に説明することを目指した新しい規制を提案し、一部の運用会社には投資先企業の温室効果ガス排出量を開示することが義務付けられる可能性があります。この規制案は欧州で導入された「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」に続くもので、サステナビリティの優先度に応じて、一般に「ライトグリーン」や「ダークグリーン」と呼ばれるカテゴリーで投資対象を分類することが求められます。

8. サステナブル投資による実際の効果

ESG投資の執行者や学者たちは、サステナブル投資戦略が広範囲かつ長期的な影響を及ぼしていない現状を嘆いています。もちろん、サステナブル投資家は企業にプラスチック使用量の削減を迫り、労働者の権利に取り組み、いわゆる公民権監査を実施するなど、幾分の前進を遂げています。また、エクソンモービルの取締役を交代させ、よりクリーンな燃料の開発に向け支援するという功績も挙げました。その他にも、ESG投資支持派の意見として、英デリバルーの投資家がESG問題を考慮していれば、同社が昨年「ギグエコノミー」(インターネットを通じて単発の仕事を請け負うことで成り立つ事業)の搾取や労働者の賃金問題で反発を受けた際に生じた損失を避けられたかもしれない、という声も聞かれます。それでもなお、反対派はESG投資だけで複雑な問題に対処できるという考えは間違いであり、最低生活賃金や温室効果ガス排出などの社会的問題に対処するには、より踏み込んだ政府の介入が必要であると述べます。

9. 投資リターンの観点から見たESGアプローチの評価

欧州、米国、グローバルの3つのカテゴリー全体で、ESG大型株ファンドは平均して非ESGファンドのパフォーマンスを上回っています。市場全体の下落に伴いESGファンドのパフォーマンスも低下していますが、その損失幅は他に比べ小規模です。年初から6月10日までにMSCIワールド・インデックスは14.8%下落したのに対し、ESGファンドは世界全体で11.7%の下落にとどまっています。ただし、投資家がESGを敬遠していることを示す初期の兆候がいくつか表れています。ブルームバーグ・インテリジェンスによると、投資家は5月に米国株の上場投資信託から20億ドルの資金を引き揚げ、3年続いた資金流入に終止符を打ちました。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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