【コラム】日本の政治が根底から覆る公算、世界に波及も-リーディー

日本を大きく揺るがした戦後最大の政治スキャンダルは、田中角栄元首相が受託収賄罪などで有罪判決を受けたロッキード事件だ。事件に憤りを感じたポルノ俳優が政界の大物フィクサーの自宅に小型機で突っ込む事件もあった。

ロッキード事件の発覚から半世紀が過ぎようとする今、長期政権を維持している自民党を裏金疑惑が直撃している。今回の疑惑を単なる政治資金の記載漏れという問題として片付けてはならない。

裏金に関与し、将来の首相候補と目される多数の議員を巻き込んだこの疑惑は、米国の最も重要な同盟国である日本の政治システム全体を根底から覆す可能性がある。

「奇妙な日本」という語り口で日本を報じることの多い世界のメディアは、このスキャンダルにまだあまり関心を示していない。しかし、日本政治の専門家で安倍晋三元首相の伝記作家であるトバイアス・ハリス氏は最近、これは「一世代に1度の政治危機」であり、広範囲に影響が及ぶ公算が大きいと指摘した。

何人もの有力議員が政治資金パーティーの収支報告を正しく行わなかったという疑いで、検察はすでに自民党の2つの有力派閥の事務所を捜索。刑事告訴や逮捕もありそうだ。

遅かれ早かれ、この事件で岸田文雄首相は終わりを迎えるだろう。岸田氏の不人気は前代未聞と言っていい。毎日新聞の世論調査では、内閣不支持率が80%近くに達し、1947年の調査開始以来最悪の結果となった。

岸田氏の不正疑惑への直接的な関与は、今のところほとんど伝えられていないが、岸田派も関係しているのではないかという報道もある。いずれにせよ、国民の非難は岸田氏に向かっている。急きょ実施した内閣改造で安倍派議員を切り捨てたが、支持率回復にはほとんど寄与しなかった。

リスク

有力なライバルが不在で、潜在的な挑戦者も政権支持率がこれほど低いと表に出ようとするのをためらうだろう。そのため、岸田氏はまだ当面は持ちこたえるかもしれない。

国政選挙の予定は2025年までなく、国会議員が議席を失うリスクはまだ差し迫っていないと思われる。しかしその間に、岸田政権の人気は低迷し、最近打ち出された一時的な定額減税のような、あからさまな選挙対策への道が開かれる。

党内最大派閥の安倍派を内閣から外すことは、リスクを伴う。一つは英国の保守党が欧州連合(EU)離脱後にEU残留を支持していた議員を排除したように、スキャンダルを免れた議員が最重要ポストに最適な人材であるとは限らないことだ。

もう一つは失うものがほとんどない派閥が跋扈(ばっこ)し、岸田氏であれ誰であれ、権力を不安定化させる可能性があることだ。自民党という大所帯の大半から支持を取り付けなればならないのが党首脳だ。良い政策を作るのは難しくなるだろう。

次のリーダーを輩出すると意気込んでいたであろう安倍派が傍流となったことで、岸田氏が政権を投げ出した場合、あるいは来年9月に予定されている総裁選で、党内の支持固めも難しくなる。

今こそ、2001年の小泉純一郎氏のようなリーダーが登場する時ではないかとの見方もある。そうなれば、河野太郎デジタル相のような改革派や、菅義偉前首相を後ろ盾をとする小泉元首相の次男、小泉進次郎元環境相のような人物が推されるかもしれない。

小泉政権時代は、その大胆な改革と戦後最長の好景気の一つとして懐かしく記憶されている。あるいは、小泉政権後に首相交代が相次いだような時代に日本が逆戻りする恐れもある。

政治の安定は国際舞台で日本の存在感や外国要人との個人的関係を深めるのに効果的だ。特に、日本の政界で2000年代後半に見られた絶え間ない混乱の中で、米国は日本と付き合うのが難しいと感じ、このことは間違いなく日本に不利益をもたらした。

岸田氏が首相を退けば、防衛や半導体投資といった重要な政策は後任が引き継ぐことになるだろう。ただ、岸田氏の実績を過小評価してはならない。

安倍氏も首相当時、防衛予算の倍増を目指していたが実現できなかった。防衛費の増額分をどう捻出するかは考えていないとしても、岸田氏は防衛予算を重要政策に据えたのだ。逆に、党の結束に腐心した岸田氏は首相就任前にうたっていたリベラルな経済政策を後退させざるを得なかった。

ポピュリズム

スキャンダルは金融政策にまで影響を及ぼす可能性がある。日本銀行の植田和男総裁は19日の記者会見で、その影響について触れなかったが、アナリストらはすでに金融緩和を支持する安倍派の存在感が小さくなれば、日銀がマイナス金利を終了しやすくなるだろうと推測している。

岸田氏、もしくは次期首相は、これ以上の混乱を避けようとするだろう。新藤義孝経済再生担当相は19日の金融政策決定会合に出席したが、この異例の行動が発したかったメッセージはこれだったのかもしれない。

さらには、連立与党の枠組みや自民党そのものさえ脅威にさらされる可能性がある。派閥を完全に排除しようという声も高まるだろう。自民党と公明党の長年のパートナーシップはしばらく荒波にもまれてきたが、これで終わりを告げることになるかもしれない。

ハリス氏が書いているように第2次安倍政権が発足した「2012年以来、日本の政治を特徴づけてきた予測可能な安定は、たぶん終わった」のだ。

日本はこれまでの10年間、多くの国をむしばんだポピュリズムの流れをおおむね免れてきた。しかし、もし自民党が議席を減らし始めれば、主流ではない政党と友好関係を結ぶことを余儀なくされるかもしれない。

他国でも起こったように、この裏金疑惑が制度そのものに対する国民の幻滅を悪化させ、より好ましくないものに波及する危険性もある。自民党の後を継ぎ主流になり得る強い野党が存在しないことが、この懸念をさらに悪化させている。

いずれにせよ、われわれは日本の政治を想定外のやり方で根本から再定義する可能性のある岐路に立っている。今回は注目する価値がある。

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(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:No, Seriously, This Japan Scandal Is Important: Gearoid Reidy (抜粋)

This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

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