アベノミクス5年、円安で株価上昇も給与や政府債務に課題

この記事は、ブルームバーグ ニュースのジェームズ・メーガとイザベル・レイノルズが執筆し、ブルームバーグ端末に最初に掲載されました。

第2次安倍晋三政権の5年間、政府と日本銀行は日本経済を長年、苦しめてきたデフレと戦ってきた。大胆な金融緩和は円安をもたらし、輸出業者が好調な世界経済の流れに乗ったことで、企業収益は拡大し株価は上昇した。

ただアベノミクスには課題も残る。人口減少が進む中、消費は勢いを欠き、企業は給与を上げるのをためらっている。多額の政府債務も影を投げかける。

経済成長

経済成長は緩やかで、安倍首相が掲げた国内総生産(GDP) 600兆円には遠いが、2012年の政権発足時からは56兆円増えた。増加分は、ベルギーのGDPより多い。

G7では下位

しかし、他の国と比較すれば出遅れているのは明らかだ。日本のGDPは7四半期連続のプラス成長を続けているが、他のG7の国はもっと成長しており、世界経済の状況を考慮すれば日本の成長はそれほど大きくはない。構造改革は遅れており、成長の多くは外需に依存している。輸出が伸びたにも関わらず、消費が増えないという構図が繰り返されている。

債務

国際通貨基金(IMF)によると、安倍政権下の日本の債務はGDPの240%で推移している。増加していないことは評価されるべきだが、負担はまだ他国より重い。人口が減少する中、1人当たりの債務は増え続けることになる。

労働市場

5年間の成果の一つは働いている人の増加だ。就業者は272万人増加する一方、失業者は107万人減少した。増加の大部分は仕事に復帰した女性によるもので、保育園の充実も後押しした。

安倍首相が当初、目指していた20年までに管理職の30%を女性にするという目標は挫折した。女性の国会議員の割合も10.1%まで微減しており、安倍内閣の20人の閣僚中、女性は2人にとどまる。

賃金の難題

賃金は少しずつ上昇しているが、アベノミクスの足かせとなっている。他の国と同様、労働需給が逼迫(ひっぱく)しているにも関わらず、賃金上昇に結びついていない。

ブルームバーグのエコノミスト調査によれば、18年の現金給与総額(ボーナス、残業を含む)は前年比1%程度の上昇にとどまると予想されている。家計が消費を増やし、企業が自信をもって価格を上げるには不十分な水準だ。

今のところ、物価が持続的に下落するデフレ状態ではないが、日銀が目指す物価上昇2%目標には届いていない。

生産性と改革

ブルームバーグ・エコノミクスの増島雄樹エコノミストは、アベノミクスは労働生産性の向上に失敗していると指摘する。製造業は改善したものの、雇用の70%を占めるサービス分野では3年から16年までに10%超低下した。

生産性の停滞は世界的減少だが、アベノミクスの第三の矢の構造改革では、生産性改革を課題に挙げていた。増島氏のスコアカードでは、コーポレートガバナンス(企業統治)やインバウンド(訪日外国人客)を成果に挙げ、農業やイノベーション(革新)は出遅れたままだ。

貿易

トランプ大統領が決めた米の環太平洋連携協定(TPP)離脱は日本には痛手だったが、安倍首相は残りの11カ国での協定を目指している。安倍首相は豪と経済連携協定(EPA)を締結しており、世界経済の3割を占める欧州連合(EU)との交渉も今月、妥結した。日本経済の活性化につながる大量の移民には扉を閉ざしたままだが、安倍政権下では外国人労働者は100万超まで急増した。

安倍首相が9月の自民党総裁選で3選を果たせば、歴代最長となる21年まで首相を務めることになる。ブルームバーグ・エコノミクスの増島氏は「日本経済を再生するまたとない機会だ」と英語で述べた。「最終的に、安倍首相は経済の成長性を高めたかどうかで評価されることになるだろう。経済が成長すれば、債務と高齢化への対処に大いに役立つことになる」としている。

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