アジア太平洋地域のESGリンク銘柄、グリーン銘柄より優勢-過去最高発行額

Read the English version published on October 28, 2021.

この記事はブルームバーグのBalkis Ammal、Sharon Chen、 Adrian Yim、Ken Yamajiが執筆しました。

背景

まだ誕生したばかりのサステナブルボンド・サステナブルローン市場は、アジア太平洋地域において猛烈な勢いで成長し続けています。年初来のESG債発行額は、2016年の水準に対して5倍以上に相当する2292億ドルを超えました。この背景には、各発行体が企業のサステナビリティー(持続可能性)に取り組み、また政府が経済の持続可能性にもたらす気候リスクの深刻さを認識してきたということがあります。また、アジア全体で各国政府がESG銘柄へのアクセスやESG関連情報の開示に向けた取り組みを実施していることも後押ししています。この記事では、アジア最大のESG市場となった国々に焦点を当て、ESG債・ESGローンのトレンドを掘り下げます。

課題

ESG債

国際資本市場協会(ICMA)による2014年におけるグリーンボンド原則の発表以降、ソーシャルボンドやサステナビリティーボンド、サステナビリティー・リンク・ボンド(SLB)、サステナビリティー・トランジション・ボンドなど、新たなESG関連金融商品がESG市場に登場しました。アジア太平洋地域におけるESG債市場の市場規模は年初来、前年を119.9%上回る1850億ドルに達しています。その債券発行額全体のうち59.2%を占めるのはグリーンボンドですが、一方でSLBが人気の高い金融商品として台頭してきています。

中国は今年、ESG債発行額で日本や韓国の座を奪いアジア太平洋地域で首位となり、前年比230.3%増となる605億米ドルのグリーンボンドを発行しました。2021年5月に中国人民銀行(中央銀行)が環境融資の指針を発表し、環境プロジェクトの資金調達に向けて借り手にインセンティブを提供しています。セクター別では、金融サービスセクターのグリーンボンド発行額が前年比1815%増、次いで発電セクターのグリーンボンド発行額が800%以上増となっています。中国は2060年までにカーボンニュートラルを実現することをすでに宣言しています。

アジア太平洋地域第2のESG債発行国は韓国です。韓国では、政府が中小企業の雇用や所得を拡大する政策で国内需要を支える中、ソーシャルボンドとサステナビリティーボンドの発行額が成長を続けています。韓国はアジア太平洋地域におけるソーシャルボンドとサステナビリティーボンド発行額全体の50.6%を占めており、その大半は政府機関と政府系の開発銀行により発行されています。

日本のESG発行額は年初来、235億ドルと安定推移しています。サステナビリティーボンドとSLBの日本における発行額は年初来52.2%増えて88億ドルとなる一方、ソーシャルボンドとグリーンボンドの発行額はそれぞれ24.5%と6.4%の減少となりました。今年は日本国内で初めてとなるトランジション・ボンドが日本郵船より発行されました。カーボンニュートラルのソリューションに向けて日本政府がロードマップを開発する中、今後は多様なセクターからのESG債発行が増えると予想されます。銀行セクターと自動車製造セクターによる発行額は、それぞれ前年比で1192.8%と592.2%の増加となりました。

ESGローン

サステナビリティー・リンク・ローン(SLL)の発行額がグリーンローンを初めて上回り、アジア太平洋地域で不動の地位を築いています。日本を除くアジア太平洋地域のSLL発行額は前年比で332%増と急増し、49件の取引で合計210億米ドルほどの資金が調達されました。

2019年以降、アジア太平洋地域で最大のESGローン市場であるのがシンガポールです。シンガポールは2021年、アジア太平洋地域のグリーンローン発行額全体のうち33%、SLL発行額全体のうち36%を占め、年初来の発行額は120億米ドルに上ります。シンガポールでは、ESGを重視した新たな政策に支えられ、ESG債発行額が前年比67%増となりました。シンガポール金融管理局は2020年、発行コストを低減してESGローンを利用しやすくするため、企業と銀行向けにグリーンローンとSLLの補助金制度を設立しました。

中国の企業も世界のESGローンブームと歩調を合わせ、グリーンローン市場で加速度的に前進しています。中国のグリーンローンは前年比195%増加して過去9年間で最高の43億米ドルに達しました。グリーンボンド市場と同じく、中国政府のカーボンニュートラル目標とESGローン指針に支えられています。中国はアジア太平洋地域のグリーンローン市場全体のうち22%を占め、シンガポールに次いで第2位です。中国でESG情報の開示が注目されるようになる中、SLL発行額は記録的なペースで増加して39億5000万米ドルに達し、アジア太平洋地域のSLL市場全体のうち18%と、SLL市場で首位のオーストラリアまであと2%に迫っています。

同様に、オーストラリアとニュージーランドのESG市場もSLL発行額の急増により92億米ドルと、倍増しました。さらに、両国のESG市場では今年、ソーシャルローンがニュージーランドの職業訓練機関テ・プケンガにより、サステナビリティーローンがオーストラリアのロイヤル・アデレード病院によりそれぞれ初めて実行されました。

セクター別では、グリーンローンの発行額は再生可能エネルギーや不動産、発電セクターに集中しており、全体の60%を占めています。SLLに関してはグリーンローンに比べてセクターの分散がみられ、不動産が28%、生活必需品が29%、精製・販売が12%、ハードウエアが8.6%、ヘルスケアが5.5%となっています。

企業はSLLを選好

全体的にSLLの方が他のESG関連金融商品よりも急速に普及しているようです。SLLは、借り手がESG目標を達成すると借入利息が軽減されるというメリットがある上に、資金用途に柔軟性があるためです。これに対し、他のESG関連金融商品は一般に用途の制約があります(すなわち環境・社会プロジェクトに限定されています)。ただし、サステナブルファイナンスの成長により、グリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)の問題も生じています。市場の成熟に伴い、SLLの情報開示に関しては包括的に集計されたESGスコア(スコア提供社によりブラックボックス化されたデータ)ではなく、より測定可能で透明性の高いESG指標が好まれるようになるでしょう。

追跡

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本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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